文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 平成19年度・中間まとめ (私家HTML版)


平成19年10月12日

文化審議会著作権分科会
法制問題小委員会


これは私家版です。
公式な資料はこちら→「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会中間まとめ」に関する意見募集の実施について
*注意!*
必ずパブリックコメントを出す前に、公式な資料で確認をしてください。この私家版は、便宜を図るために作成したものであって、公式な資料ではありません!

私家HTML版製作:ex
ミスなどの指摘ははてなダイアリーあたりまでお願いします。

最終修正:2007/10/30

--0/94--  

目 次


  • はじめに...................................................................................................................................2
  • 第1節 「デジタルコンテンツ流通促進法制」について.....................................................3
  • 1 検討の背景................................................................................................................3
  • 2 諸提案についての概観.............................................................................................4
  • 3 検討すべき課題.........................................................................................................6
  • 4 コンテンツの二次利用に関する課題の具体化........................................................8
  • 第2節 海賊版の拡大防止のための措置について..............................................................11
  • 1 海賊版の譲渡のための告知行為の防止策について...............................................11
  • 2 親告罪の範囲の見直しについて.............................................................................18
  • 第3節 権利制限の見直しについて....................................................................................27
  • 1 薬事関係..................................................................................................................27
  • 2 障害者福祉関係.......................................................................................................31
  • 3 ネットオークション等関係....................................................................................42
  • 第4節 検索エンジンの法制上の課題について (デジタル対応ワーキングチーム関係) ........45
  • 1 問題の所在..............................................................................................................45
  • 2 検討の概況..............................................................................................................50
  • 3 検討結果..................................................................................................................61
  • 第5節 ライセンシーの保護等の在り方について (契約・利用ワーキングチーム関係) .......62
  • 1 検討の背景・経緯...................................................................................................62
  • 2 「ライセンシーの保護」及び「利用権」に関する関係者の意見.........................63
  • 3 検討結果..................................................................................................................65
  • 4 おわりに..................................................................................................................69
  • 第6節 いわゆる「間接侵害」に係る課題等について (司法救済ワーキングチーム関係) ...71
  • 1 問題の所在..............................................................................................................71
  • 2 検討結果..................................................................................................................72
  • 3 まとめ.....................................................................................................................76
  • 第7節 その他の検討事項...................................................................................................77
  • 参考資料……………………………………………………………………………………...…79
  • --1/94--  

    はじめに

    文化審議会著作権分科会法制問題小委員会では、平成17年度以降、「著作権法に関する今後の検討課題」(平成17年1月24日 文化審議会著作権分科会)に掲げられた課題を中心として、政府の知的財産戦略本部から提言された検討課題など緊急に検討を要する課題を適宜含めつつ、検討を進めてきている。

    今期(平成19年度)の法制問題小委員会では、以下の課題について検討を行った。

  • ア 「デジタルコンテンツ流通促進法制」について
  • イ 海賊版の拡大防止のための措置について
  • ウ 権利制限の見直しについて
  • エ その他
  • また、あわせて、本小委員会のもとに、3つのワーキングチームを設置し、

  • ① デジタル対応ワーキングチームにおいては、検索エンジンの法制上の課題について、
  • ② 契約・利用ワーキングチームにおいては、ライセンシーの保護等の在り方について、
  • ③ 司法救済ワーキングチームにおいては、いわゆる「間接侵害」に係る課題等について
  • それぞれ検討を行ったところである。

    それぞれの検討結果については、以下のとおりである。

    ※なお、以下、本中間まとめ中で法律名が記載されていない条文は著作権法による。

    --2/94--  

    第1節 「デジタルコンテンツ流通促進法制」について

    1 検討の背景

    昨今のデジタル化、ネットワーク化の急速な進展に伴い、著作物の利用形態もかつてとは大きな変化を見せている。本小委員会では、これまでも著作物の利用形態の変化に伴う著作権法上の課題について随時検討を行ってきており、また、それに応じて著作権法も多くの改正が行われてきているが、近時、さらに、デジタル化・ネットワーク化の下で新たに発達してきた流通の仕組みにおいてコンテンツが十分に流通していないとして、デジタル化・ネットワーク化の特質に応じた新たな法制を提案する動きが様々に出てきている(※1)

    これらの諸提案は、背景や意図するところにそれぞれ異なる点があると思われるも のの、概ね次のような類似の要素を含んでいるところに特徴がある。

  • ア 著作権法とは別に、特例法などの別法の制定を想定する。(別法が対象とする範囲については、デジタル形式のコンテンツとそれ以外で分けるとする提案や、財産的価値のある商業用コンテンツとそれ以外で分ける等、提案によって様々である。)
  • イ 特別法では登録制を採用する。(登録したコンテンツが享受できる効果について は、より簡易な裁定制度により一定の合理的な利用であれば報酬を支払うことで 許諾なく利用できる、いわゆる「フェア・ユース規定」的な規定の対象となる、 不正使用に対するより強力な取締りの対象となる等、提案によって様々である。)
  • このような中で、「デジタルコンテンツ」に着目した法制、あるいはデジタル化・ネットワーク化や技術の進展の下での著作権法の在り方に関する議論は、政府全体でも経済財政諮問会議や知的財産戦略本部において取り上げられるに至り(※2)、結果として、著作権のみにとどまる問題ではないものの、以下のように、デジタルコンテンツの流通促進のための法制度等を2年以内に整備することとされた。

    ※1 様々な提案がなされているが、例えば、昨年度には、以下のようなものがあった。

  • ・ 西村ときわ法律事務所・岩倉正和氏・洲桃麻由子氏「パブリック・コメント」(平成18年4月・『「知的財産推進計画2006」の策定に向けた意見募集に寄せられた意見』より)
  • ・ 境真良氏「コンテンツ流通 登録制で」(平成18年6月30日・日本経済新聞・経済教室)
  • ・ 総務省「ユビキタスネット時代に向けての現実的な著作権制度の整備のために(試案)」(平成18年9月・『ユビキタスネット社会の制度問題検討会報告書』・参考2)
  • ・ 小塚壮一郎氏「著作権法離れ 新制度作れ」(平成19年1月31日・日本経済新聞・経済教室)
  • ・ (社)日本経済団体連合会「デジタル化・ネットワーク化時代における著作権法制の中長期的な在り方について(中間まとめ)」(平成19年2月20日)
  • ※2 経済財政諮問会議(第4回・平成19年2月27日)有識者議員提出資料、知的財産戦略本部コンテンツ専門調査会(第9回・平成19年3月8日)配付資料

    --3/94--  

    ●「知的財産推進計画 2007」(平成 19 年 5 月 31 日・知的財産戦略本部決定)

    第4章 コンテンツをいかした文化創造国家づくり

    Ⅰ.世界最先端のコンテンツ大国を実現する

    1.デジタルコンテンツの流通を促進する法制度や契約ルールを整備する

    (1)ビジネススキームを支える著作権制度を作る
    ◎① デジタルコンテンツの流通を促進する法制度等を整備する

    デジタル化・ネットワーク化の特質に応じて、著作権等の保護や利用の在り方に関する新たな法制度や契約ルール、国際的枠組みについて2007年度中に検討し、最先端のデジタルコンテンツの流通を促進する法制度等を2年以内に整備することにより、クリエーターへの還元を進め、創作活動の活性化を図る。
    (総務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

    ●「経済財政改革の基本方針2007~美しい国へのシナリオ~」 (平成 19 年 6 月 19 日・閣議決定)

    第2章 成長力の強化

    1.成長力加速プログラム

    Ⅲ 成長可能性拡大戦略―イノベーション等

    (1)政策イノベーション
    ③ 世界最先端のデジタルコンテンツ流通促進法制の整備

    デジタル化、ネットワーク化の特質に応じて、著作権等の保護や利用の在り方に関する新たな法制度や契約ルールの検討を進め、世界最先端のデジタルコンテンツ流通促進の法制度等を2年以内に整備する。

    このような状況を受けて、本小委員会では、まず、民間等における諸提案について概観し、その中で法制化が求められている事項について、我が国の法体系や条約等との関係から、どのような可能性や課題があるか検討を行った。また、諸提案を含め、このような「デジタルコンテンツ流通促進法制」の提言の背景となっている事項、問題意識について整理を試みた。

    2 諸提案についての概観

    ① 諸提案の問題意識

    前述のように、「デジタルコンテンツ流通促進法制」に関連する諸提案では、概ね著作権法とは別に特別法の制定を想定する、また、その中ではコンテンツの登録制度を提言するという特徴が概ね共通的に見られる。一方で、その意図するところは一致しておらず、例えば、

  • ア 多額な投資の回収が不可欠な著作物やネットワーク上で自由に利活用しあうような著作物など、著作物の性質に応じて複数のシステムを構築すること(著作権法の内部での複線化)、
  • --4/94--  
  • イ コンテンツを円滑に利用できるよう、肖像権等の著作権以外の権利も含めてコンテンツに係る権利関係を整理するための横断的な法制度を別に設けること(著作権法以外の他法にもまたがる横断的立法)、
  • ウ コンテンツの製作者が、媒体を問わずコンテンツを最大限流通させてその資産価値を最大化する場合の、コンテンツの安定的な取引の仕組みを設けること(著作権法とは別に流通契約の側面に着目した法制)、
  • など様々であり、必ずしも共通の問題意識が見られるわけではない。

    ② 「デジタルコンテンツ」に着目した特別法について

    また、特別法を制定すべきという場合に、その内容として、「デジタルコンテンツに限定した特別法ということが意図されている場合がある。このような提案を考える場合には、そもそも特別法の対象とする「デジタルコンテンツ」とは何かが明確になっている必要があるが、これについて、諸提案における検討を見てみると、例えば、

  • ア 商業利用されるコンテンツに着目するとの提案、
  • イ デジタル形式のコンテンツに着目するとの提案、
  • ウ 新たな登録制度を設けることとあわせて、そこに登録されたコンテンツに着目するとの提案、
  • などが見受けられ、この面でも、特に一致した「デジタルコンテンツ」像が確立さ れているものではないと考えられる。

    さらに、アについては、商業利用されるかどうかは、同一のコンテンツでも市場の状況によっては、商業利用されたりされなくなったりするなど、両者の区別は流動的である。イについても、現在のデジタル化技術の下では、元々アナログ形式で制作されたものも含め、あらゆるコンテンツがデジタル化して利用されることがあり得るため、区別が流動的になり得るなど、これらは、必ずしも特別法の対象となるものとならないものとの区別がはっきりしているものではない。また、ウについては、登録によって生じる法効果の内容によってどの法律に関係するかが決まるものであるため、登録制度自体で特別法にすべきかどうかが決まるものではない。 言い換えれば、こうした提案の場合、コンテンツのうち特定のもの――「デジタルコンテンツ」――に着目してそれに特有の法制度を想定したものというより、むしろ、特定の形態でコンテンツを利用する場合の法効果に着目したものと捉えた方がより適切であると考えられる。

    このような観点から、「デジタルコンテンツ流通促進法制」の法形式の在り方については、多義的である「デジタルコンテンツ」に着目した特別法の制定の是非をまず論ずるのではなく、まず、著作権法に関して提案されている内容について検討し、求められる措置がいかなる内容のものかを見定め、その結果に応じて、最後に、どのような法形式が適当であるかを検討すべきものと考える。

    --5/94--  

    ③ 諸提案におけるその他の個別内容について

    「デジタルコンテンツ流通促進法制」に関する諸提案では、このほか、その内容として、コンテンツの登録を求める制度の創設や、簡易な強制許諾制度等が提案されている。本小委員会では、これらのうち主な事項について今後の検討に資するよう、論点の整理を行った。それぞれの事項は、当事者間の自主的な取決めにより実施可能なものから、条約との関係で実現性に大きな問題があるものまで、内容は様々であったが、詳細は、参考資料1に譲る。

    なお、この検討は、民間等の諸提案そのものの是非を検討するものではなく、「デジタルコンテンツ流通促進法制」の整備に向け、同法制として求められている事項を洗い出す目的で、民間等の諸提案において共通的又は特徴的に見られる事項について特に取り出して、それを検討素材として用いたものである。このため、検討の素材となった各事項は、民間等の諸提案の各提案者の意図等を必ずしも反映したものではないことを付言する。

    3 検討すべき課題

    (1) 経済財政諮問会議における検討の経緯

    このように、「デジタルコンテンツ流通促進法制」に関連した諸提案の問題意識が必ずしも共通的ではない中で、「経済財政改革の基本方針2007」等で2年以内に整備することとされている「デジタルコンテンツ流通促進法制」をどのように考えればいいか。実際に、「情報爆発」という言葉もあるように、インターネット上には無数の情報が蓄積されていると言われ、中には著作権等を侵害するものもあるが膨大な流通が既になされている。このような状況にもかかわらず「デジタルコンテンツ流通促進」が求められているとはどういう意味か。

    これに関して、経済財政諮問会議の議論の経緯を見ると、同会議における有識者議員の提言では、「流通」とはインターネット上の流通を想定していることが表れている。また、同提言では、過去のTV番組が例とされているように、つまり「デジタルコンテンツ」とは、既にインターネット以外の流通媒体のために製作され、流通しているコンテンツが想定されている(※3)

    同時に、同会議の「成長力加速プログラム」(※4)では、コンテンツ産業の発展のた

    ※3「わが国では貴重なデジタル・コンテンツの多くが利用されずに死蔵されている(例:過去のTV番組の再放送等が著しく制限)。インターネット上でデジタル・コンテンツを流通させるためには、著作権、商標権、意匠権などの全ての権利者から事前に個別に許諾を得る必要があり、手続きコストがビジネス上見合わないためである。」(経済財政諮問会議(第4回・平成19年2月27日)有識者議員提出資料より)

    ※4「我が国コンテンツ産業の飛躍的な発展、国際展開を進めるため、デジタル化、ネットワーク化の特質に応じて、著作権等の保護や利用の在り方に関する新たな法制度や契約ルールの検討を進め、世界最先端のデジタルコンテンツ流通促進の法制度等を2年以内に整備する。」(経済財政諮問会議(第10回・ 平成19年4月25日)説明資料「成長力加速プログラム」より)

    --6/94--  

    めとされており、「流通促進」とは、単なるインターネット上の流通量の問題ではなく、「産業」としての発展に資する流通の促進が想定されている。

    そのほか、先の提言(脚注3)では、「流通」が促進されないことの原因として、著作権やその他の権利に係る契約に関する「手続きコスト」を挙げている。ネット外で製作された既存のコンテンツについて、改めて契約交渉が問題になる場合とは、著作権については(実際には、著作権以外に肖像権など法的関係の整理を要するものがあるが)、例えば、次のような場合と考えられる。

  • ア 製作時にはインターネットで流通させることを念頭に置かず、頒布や放送などによる流通に関する許諾のみを得ていたために、インターネットで流通させる際 に、改めて自動公衆送信や送信可能化についての許諾が必要になる場合
  • イ 当初は、権利制限規定の対象になる目的で利用したコンテンツを、その後に、それ以外の目的で利用することになり、改めて許諾が必要となる場合
  • こういった点を踏まえれば、「デジタルコンテンツ流通促進法制」として経済財政諮問会議が課題として掲げているものは、「特定の流通媒体での流通など特定の利用方法を想定して既に製作されているコンテンツを、他の流通媒体(特にインターネット)で二次利用するにあたっての課題」と整理できると考えられる。

    (2) 経済財政諮問会議の課題意識で包摂されない課題

    上記(1)のように、「経済財政改革の基本方針2007」において整備が求められている「デジタルコンテンツ流通促進法制」は、コンテンツの二次利用が念頭に置かれていると考えられるが、デジタル化、ネットワーク化の下での著作物等の利用形態、創作形態に応じた著作権制度の在り方を検討していく上で、本小委員会としては、こ の他にも検討が求められている課題はないか検討の必要があると考える。

    インターネットは既存の流通メディアと同じような意味での「流通」手段の一つとしては捉えきれない側面がある。例えば、いわゆるブログや掲示板等をはじめ、当初からインターネットにおいて創作が行われる形態や、相互に改変、推敲等をし合うことによって、作品の完成度をより高めていく形態があるなど、「制作」と「流通」の概念で分けて考えることが困難な場合があるほか、さらにそれに不特定多数の者が関わる場合や、個人的な利用との意識の下で不特定多数者間のやりとりが行われている場合等もあり、問題を複雑にしている。こういった場面における著作物等の利用形態、創作形態について、どのような著作権法上の課題があるか、またどのように対応すべきかについて、整理すべき点もあると思われる。

    一方で、このような問題については、現段階で、必ずしも利用形態の実態及びその実際上の課題が明らかになっているとは言えないため、まずは、利用実態等の調査や検討課題の整理を行い、その上で、改めて本小委員会において検討を行うことが適当である。

    --7/94--  

    4 コンテンツの二次利用に関する課題の具体化

    (1) 現状の問題点

    コンテンツの二次利用についての著作権法上の課題を考える上で、先の経済財政諮問会議における有識者議員の提言(脚注3)では、特にインターネット上で流通させる「デジタルコンテンツ」の内容として、過去のTV番組が主たるものとして考えられている。過去のTV番組の二次利用を巡る主な問題点については、以前に文化庁の検討会で検討されており(※5)、それと併せて整理すれば、次のように、著作権に関する問題のほか、放送に関するビジネスの実態や、著作権以外の権利についての問題もあると考えられる。

    ① 放送に関するビジネス上の課題

    >

    過去のTV番組の二次利用を巡る問題点については、次のような、放送に関す るビジネスの実態に関する課題や背景がある。

  • ア 放送では、1回の利用だけで、ほとんどの利益を回収する仕組みとしており、二次利用を想定して出演者等との契約を行ってきていない。
  • イ そのため、その後、二次利用をするために、使用料の支払いを含め様々な経費が必要となるが、インターネット等での二次利用では、これに見合う収入が見込 めない。
  • ウ また、当初から全ての番組について、二次利用まで含めて契約をしようとすれば料金が高くなるので、実際上、放送局はそのようなことはせず、二次利用での収入の見込み等に応じて、二次利用のための契約を事後にすることになる。
  • エ 既存の放送流通体系下においては、放送局自らが再放送を予定していたり、他の流通経路による提供(DVD販売等)と競合したりする場合があるなど、他の事業者への番組提供について、調整を要する業務上の理由がある場合もある。
  • また、これらの問題点に関連して、次のような指摘があった。

  • オ 日本の放送関係業界では、いわゆるキー局とネット局(※6)との関係においてキー局中心の系列が強く、コンテンツの多様な流通ルートが育っていないことも一因ではないか。
  • カ ただ、今後については、スポンサーの広告料は、地上波のテレビからインターネットや他の分野へと移ってきているため、放送業界の収益の構造が変わってく る。したがって、今後も同じような状況が続くということにはならないのではないか。
  • ※5「過去の放送番組の二次利用の促進に関する報告書」(平成16年6月・文化庁・過去の放送番組の二 次利用の促進に関する検討会)

    ※6 同じ番組が地域の異なる2局以上で放送されることをネットワークといい、この中核となって番組を制作して送り出す局をキー局という。また、ネットワークに加盟して番組を受ける地方局をネットワーク局といい、同じ番組を放送するネットワーク局を系列ネットワーク局という。(総務省HPより)

    --8/94--  

    ② TV番組の伝送や画質等に関する技術的課題

    また、次のように、インターネットに関する技術的な問題や、その他の技術上 の課題もある。

  • ア インターネット技術は日々進歩しているものの、配信インフラについては、回線速度の速いものと遅いものが混在していたり、パソコンの性能のばらつきがあったり、配信インフラ、回線容量の問題などの技術的な問題がある。
  • イ そもそも番組が保存されていない場合が多く(前出報告書によれば、放送番組を意識的に保存し始めたのは1980年に入ってからとされている。)、保存されていても保存状態が悪く、二次利用に耐えうる映像ではない場合がある。
  • ③ 著作権以外の権利関係に関する課題

    権利関係に関する課題としては、著作権及び実演家等の著作者隣接権の問題だけではなく、肖像権、プライバシーの権利、寺社や美術品の所有者との調整など様々な権利についてもあわせて契約をしなければならないとの課題がある。

    (2) 著作権契約に関する課題

    ① 現状

    上記(1)のほか著作権契約に関する課題があるが、コンテンツに含まれる各著作物等の二次利用に関しては、利用の円滑化の観点から、集中的な利用許諾システムの構築が試みられており、現状においては、以下のような取組が進められている。

    a 権利の集中管理による取組
  • ア 一任型による集中管理
  • 音楽(日本音楽著作権協会)、原作(日本文藝家協会)、脚本(日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会)、実演(日本芸能実演家団体協議会)、レコード(日本レコード協会)などの分野では、放送番組のネット利用などの二次利用について、著作権等管理事業法に基づく一任型(著作物等の利用の許諾等の権利管理を、使用料の額の決定も含めて委託する)による集中管理が行われている。

  • イ 非一任型による集中管理
  • 美術(美術著作権協会)、翻訳出版(翻訳エージェント)、一部の実演(日 本音楽事業者協会など)など、著作権等管理事業法の規制を受けず、非一任 型(使用料の額の決定は権利の委託者が行う)による集中管理が行われてい る分野がある。

    b その他

    ア 団体間で一定のルールを形成し、そのルールを参考に個別許諾によっているものがある。例えば、日本俳優協会では、利用者との間でルールを定めているが、個々の歌舞伎俳優がそのルールを参考に個別許諾を実施している場合があ
    --9/94--
     
    る。

    イ 放送事業者等では、放送番組等に係る出演者等の情報を整理し保存することに取り組んでいる。

    このように、著作権等管理団体に権利を委託している場合、権利者団体と利用 者団体との間で一定のルールが形成されている場合については、所定の規程やル ールに従って、一定の使用料を支払うことにより、二次利用について、ほぼその まま許諾が得られる仕組みとなっている。

    ② 著作権契約に関する課題とその考え方

    このような観点からすると、著作権に関する契約が問題で、二次利用を拒まれ る場合は、主に、以下のような場合であると考えられる。

  • ア これらの団体に権利を委託していない者やルールが適用されていない者の場合
  • イ 著作者、実演家等の死亡、引退等による権利者の所在不明の場合
  • ウ そのほか、実演家のイメージ戦略、経済的価値の維持として、過去のTV番組の二次利用の許諾をしない場合、権利者の思想信条(例えば、インタビュー等について番組制作時と考え方が変わっている)に関係する場合などで、許諾を得られない場合もある。
  • これらのうち、各実演家等のビジネス戦略や思想信条に関するものについては、 基本的に尊重すべきものではないかと考えられる。したがって、コンテンツの二 次利用に関する著作権契約上の問題点として、主として検討すべき課題としては、 以下のように整理できると考える。

  • ア 今後製作されるTV番組について、今後、権利者の所在不明等を生じさせないようにするための方策
  • イ 権利者が所在不明等になっている過去のTV番組について、利用を円滑化するための方策
  • (3) 今後の検討の進め方

    このような権利者の所在不明の場合等における著作物等の利用の円滑化方策については、現在、著作権分科会の下に設けられた過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において検討が進められている。「経済財政改革の基本方針2007」のいう「デジタルコンテンツ流通促進法制」において想定されているような、過去のTV番組等の二次利用に関する著作権法上の課題については、結局のところ、同小委員会における検討の範囲に含まれており、まずは同小委員会の検討を着実に進めていくべきものと考える。本小委員会としては、その検討の状況を見守りつつ、その他、上記3(2)で述べたような課題の検討結果を踏まえ、デジタル化・ネットワーク化の下における著作権制度の在り方について、より総合的に検討を行っていくことが適当と考える。

    --10/94--  

    第2節 海賊版の拡大防止のための措置について

    1 海賊版の譲渡のための告知行為の防止策について

    (1) 問題の所在

    現在、著作権等の権利を侵害する物品(以下「海賊版」という。)を販売するために、インターネットオークション等を利用して当該物品の譲渡等の申出(以下「譲渡告知行為」という。)が行われ、その行為が海賊版の取引を助長しているとの指摘がある。

    現行の著作権法第113条第1項第2号においては、

  • ア 権利を侵害する行為によって作成された物又は輸入物を、情を知って「頒布す
  • る行為」
  • イ 権利を侵害する行為によって作成された物及び輸入物を、情を知って「頒布の目的をもって所持する行為」(※7)
  • を、権利を侵害する行為とみなしているが、頒布の前段階の行為である海賊版の譲渡告知行為については侵害行為とはみなされていない。

    しかし、インターネットを活用した譲渡告知行為は、告知される情報の伝達範囲の広さや取引の迅速さなどの面で、チラシやカタログの配布、ダイレクトメール等の従来の一般的な広告手法と比べて権利侵害を助長する程度が高く、対策の必要性が指摘されている。

    プロバイダ責任制限法(※8)においては、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利を定めているが、その規定の適用には「特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合」であることが必要となる。しかし、著作権法においては譲渡告知行為それ自体は権利侵害に当たらないため、プロバイダ責任制限法の「情報の流通によって権利の侵害があった場合」に該当せず、同法による情報の削除請求や発信者情報の開示請求を行うことができず、海賊版の流通を防止することが困難になっているという実情がある。

    以上の観点から、海賊版の譲渡告知行為を権利侵害と位置付ける法的措置を検討する必要がある(※9)

    ※7 本規定の趣旨は、頒布行為を権利侵害行為とみなすだけでは、頒布の相手方の協力がなければ、頒布の相手方等まで特定して立証することが必ずしも容易でないことから、権利の実効性を期するため、頒布の前段階の行為に着目したものである。

    ※8 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)

    ※9 本件については、「知的財産推進計画2007」(平成19年5月13日・知的財産戦略本部決定)において「著作権法において、インターネットオークションへの出品など海賊版の広告行為自体を権利侵害とすることについて、2007年度中に検討し、必要に応じ法制度を整備する。」と、課題として取り上げられている。

    --11/94--  

    【参考:著作権法違反事件数の推移】

    事件数推移表

    (2) 譲渡告知行為に対する現行法の対応の可否について

    海賊版の譲渡告知行為として想定される行為を類型化すると、次のような場合が考えられ(その他、これらの組み合わせの形態も考えられる。)、それぞれ、現行の著作権法第 113 条第 1 項第 2 号の規定による対応の可否については、立証の問題を別とすれば、次のように考えられる。

    ① 行為類型1:譲渡告知行為を行っている者が海賊版を所持し、販売している場合

    この類型は、譲渡告知行為を行っている者が同時に「頒布を目的として所持する行為」を行っている者でもあるため、権利侵害を構成することができる。

    行為類型1図解

    --12/94--  

    ② 行為類型2:譲渡告知行為を行っている者が海賊版を受注するが、海賊版の所持・販売は別の行為主体が行っている場合

    この類型は、譲渡告知行為を行っている者は侵害品を所持していないため、譲渡告知行為をしただけでは、権利侵害を構成することができない。ただし、譲渡告知行為を行っている者が受注して海賊版所持者が販売していることから、譲渡告知行為を行っている者と海賊版所持者とを共同行為者として構成して権利侵害を追及できる可能性がある。

    行為類型2図解

    ③ 行為類型3:譲渡告知行為を行っている者と海賊版所持者が別の行為主体で、海賊版所持者が受注・販売する場合(譲渡告知行為者は譲渡告知行為のみを行う)

    この類型は、譲渡告知行為を行っている者は侵害品を所持していないため、譲渡告知行為だけでは、権利侵害を構成することができない。また、譲渡告知行為を行っている者は、告知情報の掲載の依頼を受けて告知を行っているだけであるから、販売の共同行為を行っている者としても、せいぜい幇助の可能性があるにとどまるのではないかと考えられる。

    行為類型3図解

    ④ 行為類型4:譲渡告知行為を行っている者と海賊版所持者が別人格であるが、両者には特別な関係(例えば、親会社と子会社)があり、海賊版所持者が受注・販売する場合

    この類型は、譲渡告知行為を行っている者は侵害品を所持していないため、譲渡告知行為だけでは、権利侵害を構成することができない。ただし、譲渡告知行為を行っている者と海賊版所持者が親会社・子会社のように共同して販売行為を行っているととらえられる場合には、譲渡告知行為を行っている者を共同行為者として構成し、又

    行為類型4図解

    --13/94--  

    は同一人格と構成して、権利侵害を追及できる可能性がある。

    ⑤ 行為類型5:譲渡告知行為を行っている者が発注を受けてから、自ら海賊版を製造・販売する場合

    この類型は、譲渡告知行為を行っている者は、譲渡告知行為をした時点では侵害品を所持しておらず、「頒布を目的として所持する行為」ということができないため、権利侵害を構成することができないと考えられる。

    行為類型5図解

    【参考:他の知的財産権法における規定】

    他の知的財産権法においては、侵害物品の譲渡の申出や譲渡のための展示行為を 侵害行為として規定している例がある。

    ○特許法(抄)(※10)
    第2条
    3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
    一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあっては、その物の生産、 使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合に は、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)若しくは輸入又は譲渡等 の申出(譲渡等のための展示を含む、以下同じ。)をする行為

    ○実用新案法(抄)
    第2条
    3 この法律で考案について「実施」とは、考案に係る物品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為をいう。

    ※10 特許庁編『工業所有権法逐条解説(第 16 版)』((社)発明協会、平成 13 年 8 月)によれば、この規定は、TRIPS 協定第28条の規定に従って規定されたものであり、同条中の「販売の申出(offering for sale)」は、特許発明に係る物を販売のために展示する行為だけでなく、例えば、カタログによる勧誘、パンフレットの配布等も含む概念であると解されている。実用新案法及び意匠法についても、保護水準の引き上げの観点から特許法と同様、「譲渡若しくは貸渡のための展示」を「譲渡若しくは貸渡しの申出」に改正したものとされている。

    --14/94--  

    ○意匠法(抄)
    第2条
    3 この法律で意匠について「実施」とは、意匠に係る物品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為をいう。

    ○種苗法(抄)
    第2条
    5 この法律において品種について「利用」とは、次に掲げる行為をいう。
    一 その品種の種苗を生産し、調整し、譲渡の申出をし、譲渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為

    ○商標法(抄)(※11)
    第2条
    3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
    二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
    八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為

    (3) 検討の結果

    a 上記(2)で検討したように、譲渡告知行為の基本的類型のうちいくつかについては、現在の著作権法の規定により権利侵害を構成することが可能な場合もあるが、行為類型3(譲渡告知行為を行っている者と海賊版所持者が別人格で、海賊版所持者が受注・販売する場合)や、行為類型5(譲渡告知行為を行っている者が発注を受けてから、海賊版を製造・販売する場合)については、現行法では権利侵害を構成することは困難であると考えられる。

    しかし、海賊版の譲渡告知行為の実態としては、上記の行為類型3や行為類型5のように、現行法で権利侵害として構成しない類型に該当するものも実際に多々存在すると考えられ、また、インターネットを活用した取引の場合、実際問題として、譲渡告知行為の段階では、上記いずれの類型なのか外形上区別がつかないことも考

    ※11 特許庁編『工業所有権法逐条解説(第16版)』((社)発明協会、平成13年8月)によれば、商標の広告的な使い方にも信用の蓄積作用があり、また、このような他人の使い方にも信用の蓄積作用があり、また、このような他人の使い方は商標の信用の毀損を招くという理由で、商標を広告等に用いる場合もその「使用」とみるべきだという見地から、商標の使用の一態様として規定されたものである。ここでいう「広告」とは、看板、引札、街頭のネオンサイン、飛行機が空に描いたもの、テレビによる広告、カレンダー等が含まれる。

    --15/94--  

    えられる。このため、「頒布」を権利侵害とみなしている現行規定の実効性を確保するためには、頒布の前段階の行為として、「頒布の目的をもって所持する行為」だけではなく、譲渡告知行為についても捕捉していくことが必要であると考える。

    したがって、上記行為類型1~5がいずれも対象となるよう、海賊版を販売するために譲渡告知行為を行うことについて、権利侵害を構成するようにすることが適当であると考える。

    b その際、以下の点については、あわせて慎重に検討する必要がある。

  • ア 譲渡告知行為は、著作物等そのものの利用行為ではないため、複製権等と並ぶ新たな支分権の一つとして位置づけるべきものではないと考えられること
  • イ 譲渡告知行為すべてについて権利侵害と構成することは、以下の点から問題であり、譲渡告知行為について権利侵害と構成する場合には一定の要件を付するべきであると考えられること
  • ・ 海賊版取引に荷担する意識をもたずに、単に譲渡告知行為だけを引き受けただけの者などについても権利侵害を追及することとすると、いわゆる広告関連業界にまで萎縮効果を生じさせてしまうとともに、過大な事前調査義務を課すことになる可能性があること
  • ・ 譲渡告知行為が行われた時点で海賊版か正規品を販売するか明確でないような譲渡告知行為まで権利侵害を追及することは、正規品の取引をも萎縮させてしまう効果を与える可能性があること
  • c 以上のような点を踏まえ、権利を侵害する行為によって作成された物又は同様の輸入物品の販売のためにインターネットを活用して譲渡告知行為を行うことについて、「情を知って」などの一定の要件の下で著作権等を侵害する行為とみなすこととすることが適当である。

    なお、海賊版の流通を未然に防止するという意味では、インターネット以外の媒体を通じて譲渡告知行為を行うことについても基本的には同様の課題が考えられるが、匿名性の高いインターネット環境においては、プロバイダ責任制限法における発信者情報の開示請求のためには前述の通り一定の要件を満たす必要があるなど、権利者にとって必要な措置を講じるための法的な限界がある点で他の媒体と差異がある。また、インターネット以外の媒体には、放送、新聞、雑誌からチラシなどの印刷まで多様な業態があり、それらを一律に取り扱うことは必ずしも妥当ではないため、各事業の実態とともに同様の規定を設ける必要性を見極めたうえで必要な措置を講じることが適当である。

    d また、海賊版の流通を防止する実効性を確保する観点からは、譲渡告知行為の場を提供した者にも規制を及ぼすこととした方が有効ではないかとの考え方もある。

    しかし、権利者においても、譲渡告知行為自体が権利侵害とみなされることによりプロバイダに対して発信者情報の開示請求等ができるため、それだけでも譲渡告知行為を行っている者と接触や交渉ができるなどの一定の効果があると考えられて

    --16/94--  

    おり、ただちに法的責任を追及できるようにしなければならない特段の要請もない。

    さらに、仮に法的責任を追及する場合であっても、例えばプロバイダに対してある情報の削除を請求した場合に、当該情報が著作権を侵害する情報であることを十分認識しながら何らの是正措置をとらなかったような場合については、プロバイダ自身が著作権侵害に加担したと評価できることもあること(※12)また、場や媒体を提供している者は、直接侵害とはならない場合でも、実態によっては権利侵害の幇助になり得ることなど法的対応の途はある。このことから、譲渡告知行為の場を提供した者に対する規制については、海賊版の譲渡告知行為に関する固有の問題とするのではなく、現在、法制問題小委員会に属する司法救済ワーキングチームにおいて検討されている間接侵害の課題の中で整理することが適当である。

    ※12「2ちゃんねる小学館事件」東京高判平成17年3月3日判時1893号126頁

    --17/94--  

    2 親告罪の範囲の見直しについて

    (1) 問題の所在

    著作権法における親告罪の在り方については、過去にも特許権等侵害罪の非親告罪化に伴い、著作権審議会や文化審議会著作権分科会において審議が行われたことがあるが、非親告罪化に積極的な意見と消極的な意見の双方があり、引き続き検討を行うこととされていたところである(※13)

    近時、いわゆる海賊版の製造、販売行為など重大かつ悪質な著作権等侵害事犯の存在等から、我が国の著作権法において親告罪とされているものについて、見直しが必要との指摘がある(※14)

    また、デジタル化・ネットーワーク化の進展といった急速な技術革新の中で大量かつ高品質の著作物の複製物が容易に作成・流通できるようになっていることから、これまで我が国の著作権法においては、侵害の抑止と著作権の適切な保護を図るため、累次の法改正により著作権法の罰則を強化してきており(平成18年法改正において、著作権侵害罪の法定刑は10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金に引き上げられている。)、著作権を取り巻く状況は、制定当時と比べて大きく異なっている。

    このように、現在の我が国において、知的財産創造立国を実現する上で、著作権保護の必要性が強く認識されている状況に鑑み、著作権等の侵害の罪を親告罪とすることを維持することが適当か否か再検討する必要がある。

    (2) 現行規定の趣旨と捜査実務の現状等

    ① 現行規定の趣旨

    現行著作権法上、親告罪とされているのは以下のとおりである。

  • ア 著作権、出版権又は著作隣接権に対する侵害(第119条第1項)
  • イ 著作者人格権又は実演家人格権に対する侵害(第119条第2項第1号)
  • ウ 営利目的による自動複製機器の供与(第119条第2項第2号)
  • エ 侵害物品を頒布目的により輸出、輸入、所持する行為(第119条第2項第3、4号)
  • オ 権利管理情報営利改変等(第120条の2第3号)
  • カ 国外頒布目的商業用レコードの営利輸入等(第120条の2第4号)
  • キ 外国原盤商業用レコードの無断複製(第121条の2)
  • ク 秘密保持命令違反(第122条の2第1項)
  • ※13 著作権審議会第1小委員会専門部会(執行・罰則関係)報告書(平成11年12月)、文化審議会著作権分科会「審議経過報告」(平成15年1月)

    ※14「知的財産推進計画2007」(平成19年5月31日・知的財産戦略本部決定) --18/94--  

    これらの罪が親告罪とされた制定趣旨は、次のとおりといわれている(※15)

    ア~カについての保護法益は、著作権、著作者人格権、出版権、実演家人格権及び著作隣接権という私権であって、その侵害について刑事責任を追及するかどうかは被害者である権利者の判断に委ねることが適当であり、被害者が不問に付することを希望しているときまで国家が主体的に処罰を行うことが不適切であるためである。

    キについての保護法益は、レコード製造業者がレコード製作者との契約によって得べかりし経済的利益であり、その侵害に対する刑事的責任の追及も、第一義的には、無断複製された商業用レコードの原製作者であり被害者であるレコード製造業者の判断に委ねることが相当であるためである。

    クについては、秘密保持命令が、営業秘密を保護するための制度であるにもかかわらず、秘密保持命令違反の罪の審理は、憲法上の要請から公開せざるを得ないことから、その対象となった営業秘密の内容が審理に現れ、漏洩するリスクが想定される。このため、その起訴を営業秘密の保有者の意思に委ねているものである。

    なお、非親告罪となっているのは、死後の人格的利益の保護侵害(第120条)、技術的保護手段を回避する装置・プログラムの公衆譲渡等の罪(第120条の2第1号及び第2号)、出所明示の義務違反(第122条)、著作者名を偽る罪(第121条)である。

    ② 捜査実務の現状等

    親告罪の場合の捜査・訴追の手続(非親告罪の場合との差異)は、次のとおり である。

  • ⅰ)親告罪は公訴提起の要件として、告訴が必要となる。
  • ⅱ)告訴は、捜査の端緒の一つであるが、捜査開始の条件とはされておらず、親告罪であっても、告訴がない段階で捜査を開始することは可能であり、告訴の有無が捜査の可否や範囲に直接影響を及ぼすものではない。捜査の実態としても、知的財産関係事件の捜査の場合、告訴を受理する前に、ある程度の捜査が行われている。
  • ⅲ)親告罪の告訴は、犯人を知った日から6か月を経過したときは、これをすることができないとされている(刑事訴訟法第235条)。
  • また、著作権侵害事犯の捜査については、一般的に、次のような手順により行 われている。

    ⅰ)端緒の入手としては、権利者からの告訴、被害申告による場合が非常に多いが、第三者の通報、あるいは警察独自に情報を入手する場合もある。

    ⅱ)これらの告訴や情報に基づき、各種の内偵捜査を行う。この過程で被疑者を特定し、製造、販売、ネット配信等の実態の解明を行うとともに、それが著作

    ※15 加戸守行著『著作権法逐条講義(五訂新版)』((社)著作権情報センター、平成 18 年 3 月)

    --19/94--  

    権侵害品であることの鑑定、確認を行う(当該侵害の対象になっている著作権の内容や、権利者の特定、利用許諾の有無の確認等を行う。)。

    ⅲ)この後、捜査方針の決定、証拠資料の押収、関係被疑者の逮捕、取調べ等を経て検察官に送致する(告訴の受理や告訴の意思確認は、実態上、この強制捜査に入る前の段階で行われることが多いが、強制捜査前には告訴の意思確認のみを行って、実際の告訴は強制捜査後に受理する場合もある。)。

    捜査の過程においては、捜査の端緒が告訴・被害申告であるか否かを問わず、権利の帰属や内容等についての権利者からの事情聴取は当然行うべきものであるとともに、起訴便宜主義(※16)の下で、被害者にとっての被害感情や被害の重み、訴追意思は、公訴提起の要否の判断において当然重視されるべきものであり、一般に、被害者の意思と全く無関係に訴追が行われることはない。

    (非親告罪である商標権侵害の場合でも、権利内容の確認や侵害事実の特定、許諾の有無等について確認して事件を立証していく上で権利者の協力は欠かせないものであり、捜査の実務上、権利者にその協力を求めるとともに訴追意思の確認についても考慮がされている。)

    ※16 刑事訴訟法第248条「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」

    --20/94--  

    【参考:著作権法上の罰則の一覧】

    著作権法罰則一覧表

    --21/94--  

    【参考:他の知的財産権法の状況】

    ① 特許法等

    特許権の侵害罪(10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金)については、第196条第2項において「前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない」と規定され、親告罪となっていたが、平成10年の法改正により、非親告罪化された。その改正の背景としては以下のようなものがある(※17)

  • ア 知的財産権を取り巻く状況は、制定当時と比べ、大きく異なり、現在の我が国においては、科学技術創造立国、経済構造改革を実現するうえで、知的財産権保護の必要性が強く認識されていること、
  • イ 我が国の研究開発費が増加しているなか、研究開発成果の保護を適切に図り、こうした事態に陥らないために、特許制度が確立していることに鑑みると、特許権は、私益であるとしても、極めて重要な財産権として現時点では位置付けられていること、
  • ウ 近年の研究開発、製品開発は、技術の高度化につれて個人主体から法人主体へと移行してきていること。
  • なお、秘密保持命令違反罪については、特許法においても、著作権法と同様、その性質から親告罪とされている。

    また、同様の理由で、実用新案権の侵害罪(5年以下の懲役又は500万円以下の罰金)、意匠権の侵害罪(10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金)についても平成10年の法改正により非親告罪化された(秘密保持命令違反罪については、同様に親告罪)。なお、商標権の侵害罪(10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金)ついてはかねてより非親告罪となっている。

    ② 他の知的財産権法

    種苗法の育成者権(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金)については、平成10年の種苗法の全部改正以降、親告罪の規定は置かれなくなっている。この背景としては以下のようなものがある(※18)

  • ア 近年、知的財産保護の社会、公共の面における重要性について認識が強まっ たこと、
  • イ それに伴い社会的な保護法益の比重が高まり、人格権の面は薄れてきたこと。
  • 一方、半導体集積回路の回路配置に関する法律では、第51条第2項において、回路配置利用権の侵害罪(3年以下の懲役又は100万円以下の罰金)について、引き続き、親告罪が維持されている(※19)

    ※17 特許庁編『工業所有権法逐条解説(第 16 版)』((社)発明協会、平成13年8月)

    ※18 農林水産省生産局種苗課編著『逐条解説 種苗法』((財)経済産業調査会、平成15年5月)

    ※19 回路配置利用権の侵害罪が親告罪とされている趣旨は、「保護法益が私益であることにかんがみ、常に加害者を罰することが適当でなく、権利者たる被害者の意思を尊重することが適当である」とされている(半導体集積回路法制問題研究会編『解説半導体集積回路法』((株)ぎょうせい、昭和61年2月))。平成10年の産業財産権の非親告罪化の当時にどのような議論があったかは把握できていない。

    --22/94--  

    【参考:諸外国における立法例】

    現在、欧米主要国において親告罪を採用している国はドイツとオーストリアである。ただし、ドイツについては訴追当局による職権関与が例外的に認められている。その他の欧米主要国において、著作権法上に親告罪規定を置いている国は見受けられなかった。また、韓国では、全面改正した著作権法(2006年12月28日公布、2007年6月29日施行)において、営利目的で常習して行われる著作財産権の侵害行為等のいくつかの場合を非親告罪化している。

    ○ドイツ(※20)
    第109条 告訴
    第106条から第108条まで及び第108b条の場合において、その行為は、告訴があるときにのみ訴追される。ただし、刑事訴追当局が、その刑事訴追に関する特別な公共の利益を理由として、職権による関与を要するものと思料するときは、このかぎりでない。

    ○オーストリア(※21)
    第91条(侵害)
    3 訴追は、権利を侵害された者の告訴をまって行われる。

    ○韓国(※22)
    第140条 (告訴) この章の罪に対する公訴は、告訴がなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、その限りでない。

  • 一 営利のために常習的に、第136条第1項および第136条第2項第3号に該当する行為をする場合
  • 二 第136条第2項第2号・第5号および第6号、第137条第1号から第4号および第6号と第138条第5号の場合
  • 三 営利を目的に、第136条第2項第4号の行為をする場合
  • (3) 論点の整理

    ① 著作権等の侵害行為の性質と親告罪との関係について

    ※20 本山雅弘訳『外国著作権法令集(37)ドイツ編』((社)著作権情報センター、平成19年3月)。第108a条は、業としての不法な利用についての罰則であり、これは親告罪とされていない。

    ※21 斉藤博訳『外国著作権法令集(1)』((社)著作権資料協会、昭和58年3月)

    ※22 文化庁による参考訳。第136条第1項(著作財産権侵害関係)、第2項第3号(データベース製作者権侵害関係)、第5号(配布目的所持関係)、第6号(権利管理情報関係)、第137条第2号(実演者名虚偽表示関係)が、新たに非親告罪とされたもの。

    --23/94--  

    一般に、親告罪とされる罪には、次の2類型が多いとされている。

  • A) 訴追して事実を明るみに出すことにより、かえって被害者の不利益になるおそれがある場合
  • B) 被害が軽微で、被害者の意思を無視してまで訴追する必要性がない場合
  • これらの区分に著作権法の親告罪を当てはめてみると、秘密保持命令違反罪についてはAの類型に近いと考えられるが、それ以外の著作権侵害罪等については、Bの類型に近いものもあれば必ずしもそうでないものもある。これは保護の対象となる著作物等の範囲が広く、その利用態様や規模についても必ずしも営利を目的とせず零細なものから営利目的で組織的なものまで多様であるという著作権制度の特質によるものと考えられる(※23)

    ② 法定刑と親告罪との関係について

    知的財産立国を目指す我が国において著作権の保護は重要であることから、著作権侵害の罪等の法定刑も引き上げられてきたものであり、このような状況の変化 を踏まえ、海賊版の組織的な販売等のように一見して悪質な行為については、国民の著作権に関する規範意識の観点から、権利者が告訴の努力をしない限り侵害が放置されるという現状は適切ではないという意見や、法定刑を考慮した場合、著作権等の侵害が前述の「被害が軽微で、被害者の意思を無視してまで訴追する必要がない場合」に該当するといえるのか検討する必要があるとの意見があった(※24)

    一方で、著作権等侵害は、組織犯罪的な侵害行為から学術論文等の不適切な引用等まで多様な形態で行われうるものであり、また、実態として、引き続き権利者が処罰するまでもないと許容しているような場合もあると考えられる。このような著作権の侵害態様の多様性や表現の自由に関わる面があることを踏まえ、引き続き、被害者の意思を尊重した方がよい場合があるのではないかとの意見があった。

    ③ 人格的利益への配慮と親告罪との関係について

    財産権(著作権・著作隣接権)と人格権(著作者人格権・実演家人格権)とで

    ※23 「刑が比較的軽く、その保護法益も被害者である著作者等の私権であることが考慮されたことは疑いないであろう。しかし、それだけが考慮された結果であると解するのは疑問であって、これらの罪が無限の多様性を持つ著作物の権利を客体としており、その侵害行為にも無限の多様性があるため」「侵害行為につき最も敏感で、しかも、その事情を最もよく知りうる著作者等の権利者に対し」「捜査の端緒を与えるべき第一次的な責任を課した」(香城敏麿著『註釈特別刑法(第四巻)』((株)立花書房、昭和63年9月))

    ※24 刑法において一般にBの類型にあたるとされる罪の法定刑は、それぞれ、①過失傷害罪(刑法第209条):30万円以下の罰金又は科料、②私用文書毀棄罪(刑法第259条):5年以下の懲役、③器物損壊罪(刑法第261条):3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料、④信書隠匿罪(刑法第263条):6月以下の懲役若しくは禁錮又は10万円以下の罰金若しくは科料となっている。

    --24/94--  

    は、保護対象が財産的利益か人格的利益かで異なっており、特に人格権侵害罪については、「訴追して事実を明るみに出すことにより、かえって被害者の不利益になるおそれがある場合」に該当する可能性があることから、財産権侵害罪と分けて考えるべきであるとの意見もあった。

    ④ 非親告罪化に関する実務上の問題等について

    非親告罪とした場合の実務上の問題や効果については、著作権等の侵害実態の調査等に時間を要する場合など、告訴期間(6ヶ月)の経過により告訴できないという事態を避けるべきであるとの意見や、非常に悪質な海賊版等については非親告罪にすることで規制の実効が上がるならば非親告罪の方が適当であるとの意見があった。

    これに対して、非親告罪化することによって捜査実務に与える効果や影響に関して、捜査実務の観点からは、

  • ・ 基本的には、親告罪であることが著作権法違反事件の捜査の大きな障害になっているという認識はない
  • ・ 被害者の公判の負担等の観点から告訴が得られず、捜査が中断する事例もあるが、こういった事例の多くは、告訴以外の捜査協力も得られない場合であり、親告罪であることのみが原因ではないのではないかと思われる
  • ・ 被害者の協力や意向を抜きにして訴追をすることは非常に困難であり、告訴が権利者の捜査への協力意思を表示する役割を果たしている面もあることから、非親告罪化すれば取締りが強化されるとは直ちに言いにくいのではないかと思われる
  • ・ 一方、社会に警鐘を鳴らす意味で検挙する価値の高い事件に関して、告訴の取り下げ等により捜査が中断するというような問題は解決されるという側面はあるなどの意見があった(※25)
  • ⑤ 仮に非親告罪化するとした場合の範囲について

    著作権等の侵害行為のうち、侵害の性質等に照らし、海賊版の組織的な販売等の特に悪質な犯罪に関しては、捜査実態等を考慮した一定の条件下で非親告罪化することも考えられるとの意見があったが、この範囲について、

  • ・ 常習犯については、常習侵害罪のようなものをつくって非親告罪化すること は考えられないか
  • ・ 昨年の刑罰の強化の議論の中で、強化するものと強化しないものを区別して
  • ※25 平成10年に特許権等の侵害罪が非親告罪化されて以降も、特許権の侵害事犯の検挙事例が少ないことや、特許権等の極めて専門性を要する事件の捜査では、権利者の協力が重要であることから、現在のところ、非親告罪化により取締り上効果があったといえるような客観的データはないとされる。

    --25/94--  

    議論をしたことから、その区別も参考になるのではないか

  • ・ 侵害の態様や結果が重大と認められる場合等のみを非親告罪にする場合、その軽重には微妙な判断が必要であるし、同一の類型の犯罪について一部を親告罪とし他の一部は非親告罪とするようなことは想定されていないことから、法制的な困難と捜査実務上の困難があるのではないか
  • ・ 著作者人格権や実演家人格権の侵害については、権利者個別の事情が存する ことに配慮する必要がある
  • などの意見が出された。

    (4) まとめ

    以上のような意見を踏まえると、著作権等の侵害罪についての親告罪の範囲の見直しについては、著作権等侵害行為の多様性や人格的利益との関係を踏まえると、一律に非親告罪化してしまうことは適当でない。なお、例えば現行の犯罪類型のうち一部を新たな犯罪類型としてそれのみを非親告罪とするとの考え方もあるが、そのような要件設定が立法技術上可能かどうかという点や、非親告罪とした場合の社会的な影響を見極めることも必要であり、慎重に検討することが適当である。

    --26/94--  

    第3節 権利制限の見直しについて

    1 薬事関係

    医薬品等の製造販売業者が医薬品等の適正使用に必要な情報を提供するために、関連する研究論文等を複写し、調査し、医療関係者へ頒布・提供することに係る権利制限を設けることについて

    (1) 問題の所在

    薬事法(昭和35年法律第145号)では、医薬品等の製造販売業者には、医薬品等の適正使用に必要な情報の収集、検討及び医療関係者への提供について、努力義務が課せられている(薬事法第77条の3)。

    製薬企業等がこの規定に基づき情報の提供を行うに当たって、関係文献の複製・頒布を行う場合には著作権の権利処理を要するものがあるが、情報の迅速な提供という医療上の要請及び現在の権利処理手続きの実情から、権利制限の要望がなされている。

    本課題については、平成18年度に著作権分科会報告書において「当面は、関係者の最大限の努力の下、構築されているシステムが利用料の徴収の観点から有効に機能し著作権処理の適正化が行われていくか注視することとするが、医薬品等の適正使用に必要な情報提供の複写の実態を十分踏まえた上で、著作権者等への影響を勘案して、適切な措置について引き続き検討を行うことが適当」とされたところである。

    平成19年に日本製薬団体連合会の行った複写実態調査によれば、現在、医療関係者への個別情報提供のために複写が必要な著作物のうち、学術著作権協会(コピーライト・クリアランス・センター(CCC)の管理分を含む)及び日本著作出版権管理システムの2つの著作権管理団体により管理がなされている割合は、国内・海外著作物全体では約7割となっている(参考1参照)。

    これらに係る著作権処理に関しては、日本製薬団体連合会によれば、各製薬企業は、学術著作権協会との間で包括契約を締結している状況にある一方、日本著作出版権管理システムとの間での利用許諾契約は未締結の状況にある。日本著作出版権管理システムは著作権等管理事業法に基づく一任型管理事業の実施に向けた準備を行っており、当該事業に係る包括契約の締結に向けて、使用料規程の内容等について両者間で協議を重ねているところである。

    --27/94--  

    【参考1:薬事法第77条の3に基づく情報提供に係る文献等の管理状況】

    ○ 薬事法第77条の3に基づく情報提供のうち、医療機関・医療関係者から の要望によるものは、提供文献部数全体の43.7%であり、残りは企業の自主 的情報提供である。

    ○ 情報提供のために複写が必要な著作物のうち、いずれかの著作権管理団体 にも許諾手続きが委託されているものは70%弱(国内では約5割)である。

    <文献等の管理状況>

    文献等管理状況図解

    JAACC:学術著作権協会 JCLS:著作出版権システム CCC:Copyright Clearance Center (情報提供:日本製薬団体連合会)

    【参考2:医療関係者への文献提供調査結果】

    調査期間:2006年4月17日~28日(2週間)

    文献提供調査結果表

    (情報提供:日本製薬団体連合会)

    --28/94--  

    (2) 検討結果

    ① 基本的な考え方

    今回、権利制限が要望されている事項は、製薬企業から医療関係者への情報提供のうち、製薬企業の自主提供部分を除いたもので、個別の患者への対応等のために医療関係者から文献の提供が求められる場合とされている。

    これらは薬事法に規定される努力義務に基づくものであり、また、患者の生命、身体に関するものであり迅速な対応が求められることも多いと考えられ、文献の複製について個別に許諾に時間をかけることが不適切な場合もあると考えられる。

    このような状況の下、製薬企業と関係団体との間では、前述のように包括的な契約を締結する努力が行われているが、情報提供が求められる文献のうち、現在、関係団体(現在、交渉中のものも含め)の管理に属しているものは、前述のように約7割ということであり、この残る3割の団体管理に属さない文献については、事前に迅速に許諾を得ることが困難な場合が多いと考えられる。

    このため、権利制限の形で何らかの対応を図ることが適当であるとの意見が多かった。

    ② 権利制限による対応の方向性について

    ①を踏まえて権利制限を行う場合、以下のような方向とすることが適当である と考えられる。

    a 権利制限を行う対象については、患者の生命、身体に関して迅速な対応が求め られる場合には事前の許諾に時間をかけることが不適切であるとの権利制限の 趣旨に基づき、薬事法第77条の3に基づく情報提供であって、医療関係者の求 めに応じ、当該製薬企業が提供する医薬品等について、その適正な使用のために 必要な情報の提供を行う場合に限定すべきと考えられる。

    つまり、医療関係者の求めとは無関係に行われる企業の自主的な情報提供は含 まれないこと。また、医療関係者からの求めによるものであっても、当該製薬企 業の提供する医薬品等とは直接関係しない文献を提供する場合は含まれないこ ととすべきである。

    b 権利制限を行う際には、文献複写を行った者から著作権者へ通常の使用料相当 額の補償金の支払いを義務付けることが適当であると考えられる。 これは、権利制限の対象として考えられる文献は、医学関係の文献であること が多く、医療現場で従事する者に読まれるものもあると思われることから、製薬 企業による文献提供は、これらの文献の権利者の利益と衝突する可能性があるこ とから、無償の権利制限をかけることは、これらの者の経済的利益を不当に害す ることになりかねないと考えられることによるものである。 なお、補償金の枠組みについては、著作権が団体管理されていない文献につい ても補償金をプールする等により支払いが確保されるようにすべきとの意見も

    --29/94--  

    あったところであり、複製を行う者は、著作権者に対してその旨を連絡する等に より補償金の実効性が確保されるようにすることが適当であると考えられる。

    ③ 留意事項

    ②の方向性により制度設計を行うにあたっては、さらに以下の点に留意することが必要であると考えられる。

    a 補償金制度の運用に当たっては、補償金の額について権利者側と利用者側と の間に共通理解があることが必要である。この観点からは、製薬企業と日本著 作出版権管理システムとの間における包括契約締結に向けた取組みにおいて、 利用条件の合意が得られていない状況にあることは、補償金制度が実効的に機 能するかどうかについての懸念材料であると考える。このため、まず、当事者 間での合意形成が図られることが必要であること。

    b 権利制限規定が確かに運用され、その対象範囲がみだりに拡大することを避 けるために、製薬企業において医療情報担当者が提供する文献を把握するシス テムを整備することや、その提供文献がそれぞれ②aで示したような範囲に該 当するか否かについて可能な限り客観的に区別されるよう、製薬企業等の関係 者においてガイドラインを作成すること等の適切な措置が講じられることが適 当と考えられること。

    c 本権利制限の趣旨が、患者の生命、身体に関して迅速な対応が必要であるこ とであることに鑑みれば、本来、そもそも製薬企業からの文献の提供を待たず とも医療関係者が必要な情報を取得できる体制の在り方について検討が行われ るべきものであると考えられる。実際、諸外国においては製薬企業の行う複製 について権利制限を行うより先に、そのような医療関係者による情報取得の体 制を整備していることにかんがみれば、仮に本権利制限が実現した場合におい ても、引き続き関係省庁等において、これらの課題について並行して検討を行 い、必要に応じて、本制度の存続の要否について検討することが適当であると 考えられること。

    ④ まとめ

    以上のとおり、医薬品等の製造販売業者が医療関係者に対して行う文献提供に ついては、製薬企業及び著作権管理団体間の契約の状況や運用の適正化のための 取組み状況等、実効的な制度運用に向けた必要な環境が整うこと、及び必要に応 じて制度の存続の要否について検討を行うことを前提として、一定の要件の下、 権利制限を行う方向で検討することが適当であると考えられる。

    --30/94--  

    2 障害者福祉関係

    (1) 問題の所在

    ① 視覚障害者関係

    ア 私的使用のための著作物の複製は、当該使用する者が複製できることとさ れているが、視覚障害者等の者は自ら複製することが不可能であるから、一 定の条件を満たす第三者が録音等による形式で複製すること

    イ 著作権法第 37 条第 3 項について、

  • (ⅰ)複製の方法を録音に限定しないこと
  • (ⅱ)対象施設を視聴覚障害者情報提供施設等に限定しないこと
  • (ⅲ)視覚障害者を含む読書に障害を持つ人の利用に供するため公表された著作物の公衆送信等を認めること。
  • 視覚障害者、聴覚障害者又は上肢機能障害者等(以下「視覚障害者等」という。)は、自らが所有する著作物を自らが享受するためであっても、当該障害があるために、自ら、録音又は当該著作物の複製に伴う手話・字幕の付加を行うことが困難なことがある。そこで、一定の条件を満たす第三者によりそれらの行為が事実上なされたとしても、視覚障害者等自身による私的使用のための複製として許容されるようにすべきとの要望がある。

    また、著作権法第37条第3項は、専ら視覚障害者向けの貸出しの用に供するために、著作権者の許諾なく著作物を録音することができる旨を規定しているが、対象施設としては、視覚障害者情報提供施設等に限られている(著作権法施行令第2条)(※26)

    このため、現行制度では、

  • ⅰ)著作物を録音以外の方法で複製する場合、
  • ⅱ)視聴覚障害者情報提供施設等に当たらない国立国会図書館、公共図書館、大学図書館等において録音資料を作成する場合、又は
  • ⅲ)例えば重度の身体障害者や寝たきりの者等、視覚障害者以外の読書に障害を持つ人の利用に供するために公表された著作物の公衆送信等を行う場合
  • には、著作権者の許諾が必要である。

    これらの場合について、著作権者の許諾なく行えるようにし、多様な障害者の情報環境の改善を図ることが必要であるとの要望がある。

    ※26「点字図書館その他視覚障害者の福祉を増進する目的とする施設」として、①国、地方公共団体、公益法人が設置する、知的障害児施設、盲ろうあ児施設、視聴覚障害者情報提供施設(点字図書館、点字出版施設)、障害者支援施設、障害福祉サービス事業、②養護老人ホーム及び特別養護老人ホーム、③特別支援学校に設置された学校図書館、筑波技術大学附属図書館などが指定されている。

    --31/94--  

    ② 聴覚障害者関係

    ア 聴覚障害者情報提供施設において、専ら聴覚障害者向けの貸出しの用に供するため、公表された著作物、放送等に手話や字幕を挿入(翻案)して録画すること

    イ 専ら聴覚障害者の用に供するために、手話や字幕が挿入(翻案)された、公表された著作物、放送等の録画物を公衆送信することについて

    現在、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターでは、放送事業者や著作者団体等との事前の一括許諾契約を結ぶことにより、字幕・手話を挿入した録画物を作成し、聴覚障害者情報提供施設等において、聴覚障害者用に字幕・手話入りビデオ、DVD等の貸出しを行っているが、現実には、聴覚障害者等が希望する作品には十分には字幕や手話を付与することは行われていないとの指摘がある。

    また、著作権法第37条の2では、聴覚障害者情報提供施設において、放送又は有線放送される著作物について、音声を文字にしてする自動公衆送信が認められているが、この自動公衆送信はリアルタイムによるものに限られていることから、字幕や手話を付した複製物を作成し、これを自動公衆送信するには許諾が必要である。このことについて、権利制限を認めてもらいたいとの要望がある。

    ③ 知的障害者、発達障害者等関係

    ア 聴覚障害者向けの字幕に関する翻案権の制限について、知的障害者や発達障害者等にもわかるように、翻案(要約等)をすること

    イ 学習障害者のための図書のデイジー化(※27)について

    聴覚障害者向けに字幕により自動公衆送信する場合には、わかりやすい表現に要約するという形態での翻案が可能(第43条第3号)であるが、文字情報を的確に読むことが困難な知的障害者や学習障害者についても、同様の要請がある。

    特に、教育・就労の場面や緊急災害情報等といった場面での情報提供に配慮する必要性が高いため、知的障害者や発達障害者等にもわかるように翻案(要約等)することを認めてもらいたいとの要望がある。

    また、現在、学習障害者や、上肢障害、高齢、発達障害等により文章を読むことに困難を有する者の読書支援を目的として、図書をデイジー化し、提供する活動が行われている。このような活動についても、権利制限の対象とすべきとの要望がある。

    ※27 デイジー(DAISY)は、Digital Accessible Information System の略語であり、デイジーコンソーシアムにより開発されているデジタル録音図書に関する国際規格である。現在、日本のほか、スウェーデン、英国、米国などの国々で利用されている。

    デイジーコンソーシアムは、アナログからデジタル録音図書に世界的に移行することを目的として、1996年に録音図書館が中心となり設立された組織。(出典:Daisy Consortium HP)

    --32/94--  

    さらに、イについては、自民党・特別支援教育小委員会において、以下のとお り提言されている。

    ●「美しい日本における特別支援教育」(平成 19 年 5 月 11 日、自民党・特別支援教育小委員会)

    ⑧ 著作物のデイジー化は、学習障害のある者にとって大いに有用なツールであるとの指摘等も踏まえ、著作権法上の制約について、改正も視野に入れた検討を行う。

    【参考:諸外国における立法例】(※28)

    ○ドイツ
    第45条a(1) 知覚障害により作品の理解ができない、またはかなり困難である人々のために、またそうした者への作品の普及目的の場合に限り、利益を目的としない作品の複製は認められる。

    ○イギリス
    第31条のA(1) 視覚障害者が、文学的作品、演劇作品、音楽作品、芸術作品の全部又は一部の合法的な複製物を所有しており、障害ゆえにその複製物へのアクセスが不可能である場合、当該障害者の私的利用のためにアクセス可能な形の複製物を作成することは、著作権侵害には当たらない。

    (5) この条の規定に基づき、ある者が視覚障害者の代わりにアクセス可能な形の複製物を作成してその料金を得る場合は、その金額は複製の作成及び提供においてかかったコストを上回ってはならない。

    第31条のB(1) 認可を受けた機関が、商業用に作られた文学作品、演劇作品、音楽作品、芸術作品の全部又は一部の合法的な複製物を所有している場合、障害ゆえにその複製物へのアクセスが不可能な視覚障害者の私的利用のためにアクセス可能な形の複製物を作成及び提供することは、著作権侵害にはあたらない。
    ※ 認可を受けた機関:教育機関および非営利団体(第31条のB(12))

    第74条(1) 指定団体は、聾者若しくは難聴者又はその他身体障害者若しくは精神障害者である人々に、字幕入りの複製物その他それらの人々の特別の必要のために修正されている複製物を提供することを目的として、テレビジョン放送

    ※28 三井情報開発株式会社 総合研究所『知的財産立国に向けた著作権制度の改善に関する調査研究-情報通信技術の進展に対応した海外の著作権制度について-』(平成18年3月)より

    --33/94--  

    若しくは有線番組又はそれらに挿入されている著作物のいずれの著作権をも侵害することなく、テレビジョン放送又は有線番組の複製物を作成し、及び複製物を公衆に配布することができる。

    ○アメリカ
    第121条 第106条及び第710条の規定にかかわらず、許諾を得た団体が既発行の非演劇的言語著作物のコピーまたはレコードを複製しまたは頒布することは、視覚障害者その他の障害者が使用するためのみに特殊な形式においてかかるコピーまたはレコードを複製しまたは頒布する場合には、著作権の侵害とならない。

    ○カナダ
    第32条(1) 知覚障害者の求めに応じて以下のことをする場合、または非営利団体がその目的のために以下のことをする場合には、著作権侵害にはならない。

    (a) 文学作品、音楽作品、芸術作品、演劇作品を、特に知覚障害者のための形態において複製ないし録音すること(映画著作物を除く)

    (b) 文学作品、演劇作品を、特に知覚障害者のための形態において手話に翻訳、改作、複製すること(映画著作物を除く)

    (c) 文学作品、演劇作品を手話(ライブあるいは特に知覚障害者のための形態)で実演すること

    ※ 第2条「“知覚障害”とは、文学作品、音楽作品、演劇作品、芸術作品を元の形のまま読んだり聞いたりすることが不可能、あるいは困難な状態を指し、以下のような状態を含む。

    (a) 視覚・聴覚における重度あるいは全体的な障害、または、焦点・視点の移動ができない状態

    (b) 本を手に持ち扱うことができない状態

    (c) 理解力に関わる障害のある状態」

    ○スウェーデン
    第17条 録音以外の方法により、だれもが、障害者が作品を楽しむために必要な形態において、出版されている文学作品、音楽作品、視覚的芸術作品の複製を作成することが可能である。その複製物を障害者に配布することができる。

    また、政府が特定の場合において認可した図書館や組織は、以下のことが可能である。

    1.最初の段落で言及した複製物を、作品を楽しむために複製を必要としている障害者に伝達すること。

    3.聴覚障害者が作品を楽しめるように、作品をラジオ、テレビ放送、映画で送信すること、およびその複製物を聴覚障害者に配布、伝達すること

    --34/94--  

    (2) 検討結果

    ① 全体の方向性

    障害者福祉に関する権利制限は、障害者にとって、録音物等のその障害に対応した形態の著作物がなければ健常者と同様に著作物を享受できないという状況に対して、いわゆる情報アクセスの保障、情報格差是正の観点から検討が必要とされているものであり、そのような障害に対応した形態の著作物を制作することには、基本的に高い公益性が認められると考えられる。このような観点から、障害者が著作物を利用できる可能性を確保する方向で著作権法上可能な措置について検討すべきであるとの意見や、障害者福祉の問題は、諸外国と比べて日本固有の事情があるとは考えられないことから、諸外国の例等を参考にそれと同程度の立法措置を講ずべきとの意見があった。また、検討に当たっては、健常者向けのマーケットや障害者向けのマーケットへの影響について考慮すべきであるとの意見があった。

    以上を基本的な方向性としつつ、各検討課題における対応方策について、次のとおり検討を行った。

    ② 視覚障害者関係についての対応方策

    a 障害者の私的複製を代わって行うための措置について((1)①ア関係)

    現行の著作権法第30条では、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的として、その使用する者が著作物を複製することができることとされている。この「使用する者」については、使用者自身であることが原則であるものの、その支配下において補助的な立場にある者が使用者自身に代わって複製することも許されると解されている(※29)

    このため、このような考え方を前提とすれば、ボランティア等が障害者の自宅において録音物を作成するような場合や障害者自身と個人的関係のある者が録音物を作成するような場合など、第30条の私的使用目的の複製に該当するものもあると考える。一方、点字図書館のプライベートサービスのように、外部の機関が多数の視覚障害者からの個人的な複製の要望に応じて録音物を作成するとの形態については、第30条の範囲の複製とは考えにくい。

    また、第37条第3項では、視覚障害者の用に供するために、公表された著

    ※29「使用者の手足として、その支配下にある者に具体的複製行為を行わせることは許されます。例えば、会社の社長が秘書にコピーをとってもらうというのは、社長がコピーをとっているという法律上の評価をするわけであります。ただし、コピー業者に複製を委託するということになりますと、その複製の主体はコピー業者であって、本条にいうコピーを使用する者が複製することにはなりません」(加戸守行著『著作権法逐条講義(五訂新版)』((社)著作権情報センター、平成18年3月))

    「使用する本人との関係で補助的な立場にある者が本人に代わって複製することは許容の範囲に収まるが、使用する本人からの注文により複製を業とする者が行う複製となると、もはや私的使用のための複製からは逸脱する」(斉藤博著『著作権法(第3版)』(有斐閣、平成19年4月))

    --35/94--  

    作物を録音することができることとされているが、その目的は、貸出しの用に供するため又は自動公衆送信の用に供するためとの限定がある。

    平成18年1月の著作権分科会報告書では、「私的使用のための複製」による対応を考えるのか、一定の障害者向けのサービスについて特別の権利制限を考えるのかについて、実態を踏まえた上で検討すべきとされていたところである。

    この点、第30条の私的使用目的の複製は、家庭内の行為について規制することが実際上困難である一方、零細な複製であり、著作権者等の経済的利益を不当に害するとは考えられないという趣旨に基づいた規定であり、前述のプライベートサービスのように、外部の機関が多数の視覚障害者からの要望に応じて録音物を作成するとの形態について、第30条の範囲を拡大して対応することは、本来の規定の趣旨から外れるものと考えられる。

    したがって、視覚障害者等の私的使用目的の複製を第三者が代わって行うための措置としては、別途、第37条第3項に基づき録音図書の作成を行う目的について、貸出しの用に供するため又は自動公衆送信の用に供するために限らないこととし、視覚障害者等が所有等をする著作物から録音図書を作成・譲渡することが可能となる措置を講ずることが適当と考えられる。

    b 第37条第3項の複製方法の拡大について((1)①イ(ⅰ)関係)

    本事項については、(1)③イの課題と併せて検討を行った。

    c 第37条第3項の複製を行う主体の拡大について((1)①イ(ⅱ)関係)

    現行の第37条第3項では、「点字図書館その他視覚障害者の福祉を増進する目的とする施設」において録音が可能としており、具体的には、視覚障害者を対象とした施設が指定されているが、これらのほか、公共図書館等においても録音を可能とするよう要望がなされている。

    現在、国立国会図書館や一般図書館において、日本図書館協会と日本文藝家協会が実施する「障害者用音訳資料ガイドライン」に従い、権利処理を行った上で録音図書(デイジー図書を含む)の作成を実施してきている(※30)。これらの施設は、同ガイドラインの下で、登録制などにより利用者が視覚障害者等であることの確認が行える体制が整えられているものとして事業を実施しているものである。このように利用者の確認等が整えられ、視覚障害者の福祉等に携わる施設と同等の取組が可能と認められる公共施設については、第37条第3項の規定に基づく複製主体として含めていくことが適当と考えられる。

    ※30 一般図書館では、平成19年7月11日現在、204館において実施(第6回法制問題小委員会(平成19年7月19日)資料4-3 障害者放送協議会等提出資料より)。また、国立国会図書館では、平成18年度中に87タイトルのデイジー図書の作成を実施する一方、許諾手続等の理由により、新たに要望を受け付けたタイトル数95に対し謝絶数は75タイトルとなっている。(「DAISY(Digital Accessible Information System)の年度別受付・謝絶・完成・貸出タイトル数(平成14年度~19年度))」国立国会図書館関西館図書館協力課、平成19年10月1日より)。

    --36/94--  
    d 対象者の範囲について((1)①イ(ⅲ)関係)

    今回の権利制限は、録音物がなければ、健常者と同様に著作物を享受できない者への対応という観点から検討が必要とされているものであり、その必要性は、理念的には視覚障害者に限られるものではないと考えられることから、障害等により著作物の利用が困難な者について、可能な限り権利制限の対象に加えることが適切である。

    もっとも、権利制限規定は、権利の範囲を定める規定との性格上から、また法に関する予測可能性を確保する観点から、規定の適用範囲を明確にしておく必要がある。範囲の明確化の方法としては、例えば、障害者手帳や医師の診断書の有無等の基準により限定する方法があるが、そのほか施設の利用登録等により確認がなされた者等を対象とするといった方法で認めていくべきとの要望もある。このため、このような意見等を踏まえ、規定の明確性を担保しつつ可能な限り範囲に含めていくよう努めることが適当と考えられる。

    e その他の条件について

    今後、障害者向けの録音物等の市場が大きくなってくることも考えられ、営利事業としてこれらの複製を行う場合は権利制限の取扱いを慎重に検討すべきではないかとの意見があった。

    また、コンテンツの提供者等によりこれらの録音物が提供されることが本来望ましいとの考え方(※31)からは、コンテンツ提供者自らが、障害者に利用しやすい形態で提供するインセンティブを阻害しないようにする必要があると考えられることから、録音物等の形態の著作物が市販されている場合については、権利制限を適用しないこととすることが適当と考えられる。

    ③ 聴覚障害者関係についての対応方策

    a 現状及び対応方策

    現在、放送行政においては、放送局自らが字幕放送等を行うことについて目標を設定しつつ取組を進めてきている。このような取組は今後とも重視されるべきものであり、また相当の進捗が見られるが、しかしながら、緊急放送等を含めたすべての放送番組において字幕等が対応できている状況にはないとの指摘がある。

    また、放送行政以外の分野では必ずしも同様の取組が進んでいるとは言い難い状況にあると考えられる。

    ※31「「障害者基本法」は第6条において障害者が差別されることなく文化活動に参加できる社会の実現に寄与するよう努めることを国民の責務としている。……コンテンツ提供者に対応を求めることを社会的に制度化できるのか検討いただきたい」(第6回法制問題小委員会(平成19年7月19日)資料4-2 障害者放送協議会等提出資料より)

    --37/94--  

    【参考:字幕付与可能な放送時間に占める字幕放送時間の割合、手話放送の割合】(※32)

    <字幕放送>

    NHK(総合テレビ) 平成18年度実績 100% (※ 43.1%) 民放(キー5局平均) 平成18年度実績 77.8% (※ 32.9%) ※は、総放送時間に占める字幕放送時間の割合 <手話放送> NHK(教育テレビ) 平成18年度実績 2.4% 民放(キー5局平均) 平成18年度実績 0.1%

    【参考:日本語によるパッケージ系出版物のうち字幕の付与されているものの割合(※33)

    日本図書館協会による頒布事業において、日本で製作された日本語による映像資料のうち、日本語字幕付きVHS:139本(0.66%)、日本語字幕付きDVD:約1,000本(7.1%)

    一方、前述のように、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターでは、放送事業者や著作者団体との事前の一括許諾契約を結ぶことで、字幕・手話を挿入した録画を行っている(NHK、関東民放5社、関西民放5社、地方局等・次ページ図参照)。字幕付き、手話付きのビデオ又はDVDが約3,000本あり、作品ごとに利用条件、利用方法を設定しつつ、利用登録制により、貸出等を行っている(※34)。なお、聴力障害者情報文化センターによると、同センターにおいて制作しているDVDは、人間の台詞のみならず、そのDVDの鑑賞に必要な音声情報を文字にした字幕(いわゆるバリアフリー字幕)が挿入されたものとなっているとともに、聴覚障害者の障害の程度に応じた字幕の選択が可能となっているとのことである。

    しかしながら、必ずしも希望作品について希望どおりに許諾が得られているわけではないとの指摘があり、また、仮に、それ以外の個人や取材先等に関するものを製作しようとする場合には、改めて個別の契約が必要となるところである。

    このような状況を踏まえ、聴覚障害者の用に供するために字幕等を挿入して複製を行う行為についても、権利制限の対象として新たに位置づけることが適当と考えられる。

    ※32 「平成18年度 字幕放送等の実績」(平成19年6月29日・総務省報道発表資料)

    ※33 前出・第6回法制問題小委員会(平成19年7月19日)資料4-2

    ※34 社会福祉法人聴力障害者情報文化センターHPより

    --38/94--  

    【参考:字幕ビデオ制作等の流れ】

    字幕ビデオ製作等の流れ図解

    (情報提供:社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター)

    b 複製を行う主体について

    現行では、上記のように、聴覚障害者情報提供施設等を中心として、関係団体との契約により字幕の付与等が行われているが、視覚障害者関係の権利制限の要望と同様に、公共図書館等についても複製主体としてもらいたいとの要望がなされている。これについては、登録制などにより利用者が聴覚障害者等で

    --39/94--  

    あることの確認が行える体制が整えられていること等の条件を満たす公共施設についても、複製主体として含めていくことも考えられるが、一方で、映像資料を取り扱うこととなることに関して、

  • ⅰ)点字図書や録音図書と異なり、字幕等を付した映像資料については、健常者にとっても利用価値が損なわれない可能性があることから、貸出し対象者の確認についてより慎重な体制が求められること、
  • ⅱ)放送やDVD等には、複製の抑止等をするための技術的な保護手段がか けられているなど、技術的にもより高度な体制が求められること(※35)
  • などにかんがみ、これらの体制が確保されるかどうかを見極めた上で、適切な施設等を複製主体としていくことが適当と考えられる。(なお、現行の第37条の2(いわゆるリアルタイム字幕のための権利制限)についても、第37条の規定とは異なり、リアルタイム字幕の付与のために一定の能力が必要との観点から、個別の聴覚障害者情報提供施設ではなく、それを設置する事業者等が指定されている。)

    c 対象者の範囲について

    対象者の範囲については、視覚障害者関係の場合と同様の観点から、規定の明確性を担保しつつ可能な限り範囲に含めていくよう努めることが適当と考えられる。

    d その他の条件について

  • ⅰ)前述のように字幕等を付した映像資料については、健常者にとっても利用価値が損なわれない可能性があることから、例えば、利用登録制などのほか、複製物について技術的保護手段を施すこと等、流出防止のための一定の取組が可能となっていることを求めることが適当と考えられる。
  • ⅱ)このほか、営利事業として複製を行う場合についての考え方や、コンテンツの提供者等によりこれらの録音物が提供されることが本来望ましいとの考え方(※36)からは、コンテンツ提供者自らが、障害者に利用しやすい形態で提供するインセンティブを阻害しないようにする必要があると考えられることについては、視覚障害者関係の権利制限の場合と同様と考えられる。
  • e 公衆送信の取扱いについて

    字幕等を付した映像資料を公衆送信するとの要望は、具体的には、専ら聴覚障害者を対象としたCS放送を念頭に置いた要望とのことであるが、公衆送信は、広く権利者に影響を与える可能性があることから、権利制限を認めていく

    ※35 社会福祉法人聴力障害者情報文化センターでは、現在、健常者向けに市販されているDVD等と同様の技術的な保護手段を施してから貸出しを行っており、今後もこのような体制が確保できるのかどうかについて配慮が必要である。

    ※36「これらの作業は本来出版や放送を行う側が行い、それを保証することを政府が義務化すべきである」(第6回法制問題小委員会(平成19年7月19日)資料4-1 障害者放送協議会等提出資料より)

    --40/94--  

    とする場合には、利用者の限定の手段等が確保されることを前提とすることが適当と考えられる。

    ④ 知的障害者、発達障害者等関係についての対応方策

    a 現行規定での対応可能性

    ヒアリングの中では、学校教育に関係した事例が多く見られたが(※37)、著作権法第35条第1項では、学校その他の教育機関において、教育を担任する者及び授業を受ける者が、授業の過程において使用する場合には、公表された著作物を複製することができ、また翻案して利用することもできる(第43条第1号)とされている。

    この「教育を担任する者」については、その支配下において補助的な立場にある者が代わって複製することも許されると考えられており(※38)、学校教育、社会教育、職業訓練等の教育機関での活用であれば、デイジー図書の製作の態様によっては、現行法においても許諾を得ずに複製できる場合があると考えられる。ただし、複製の分量や態様、その後の保存等の面においては、必要と認められる限度に限られる。

    一方、ヒアリングの中では、これらの取組の中核的な施設のようなものがデイジー図書の蓄積や提供を行う構想等も提示されているが(※39)、そのような形態であれば、第35条第1項の範囲の複製とは考えにくい。

    b 対応方策について

    知的障害者、発達障害者等にとって、著作物を享受するためには、一般に流通している著作物の形態では困難な場合も多く、デイジー図書が有効である旨が主張されており、著作物の利用可能性の格差の解消の観点から、視覚障害者や聴覚障害者の場合と同様に、本課題についても、何らかの対応を行う必要性は高いと考えられる。

    このような観点から、②視覚障害者関係、③聴覚障害者関係の権利制限の対象者の拡大を検討していく中で、権利制限規定の範囲の明確性を確保する必要性はあるものの、可能な限り、障害等により著作物の利用が困難な者についてもこの対象に含めていくよう努めることが適切である。その際、複製の方法については、録音等の形式に限定せず、それぞれの障害に対応した複製の方法が可能となるよう配慮されることが望ましいと考えられる。

    ※37 前出・第6回法制問題小委員会(平成19年7月19日)資料4-2

    ※38 「教育を担任する者といいましても、第30条の私的使用の場合と同様に、実際にはその部下職員である事務員とか児童・生徒を手足として使ってコピーをとることは、複製の法律的主体が教員自 身である限り許されます」(加戸守行著『著作権法逐条講義(五訂新版)』((社)著作権情報センター、平成18 年3月)

    ※39 前出・第6回法制問題小委員会・資料4-2。ただし、現状において、特にそのような施設が整っているとの実態は特段示されなかった。

    --41/94--  

    3 ネットオークション等関係

    (1) 問題の所在

    近年、税務当局が税金滞納者から差し押さえた絵画をインターネットオークションで公売する際、画家の許諾を得ないで画像を掲載するのは著作権(「複製権」及び「公衆送信権」)との関係が問題になるのではないかと指摘された事例など、ネットオークションにおいて美術作品等の画像を掲載することについての著作権法上の位置づけが問題となってきている。

    税の滞納処分に係る「公売」は、滞納された税を最終的に徴収するため納税者の差押財産を強制的に売却する滞納処分である。公売がインターネットオークションで実施される場合、公売財産が絵画等の著作物であれば、公売財産の情報を写真の掲載等により提供する過程において、著作物の複製や自動公衆送信(送信可能化)が問題となると考えられる。他方、公売財産となった絵画作品の中には作者不詳のものも多く、限られた期間に著作権者の許諾を得ることとするのは困難な模様である。

    なお、ヤフー株式会社によれば、同社の提供しているインターネットオークションサイトでは、出品者が自ら商品画像の掲載(アップロード)を行うこととなっており、サイト運営者は、このような画像掲載を含めた譲渡告知の掲載サービスを提供するものであって、出品者とサイト利用者間の売買契約の成立過程に直接関与しない仕組みとなっているとのことである。また、このような点においては、税の滞納処分に係るインターネット公売についても、基本的に同じ仕組みにより実施されている。

    (2) 検討結果

    ① 現行法上の取扱い(「複製」に該当するかどうか)

    まず、インターネット上に掲載した解像度を落とした画像が「複製」に該当するかどうについて、「複製」とは「有形的に再製すること」(著作権法第2条第1項第15号)であるが、具体的には、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製すること」をいうと解されている(※40)。また、著作物の部分的な再製であっても、それが「著作物の本質的な部分」であれば、一般に「複製」に該当するとされている(※41)

    一方で、写真の一部に他の著作物が写り込んでいる場合等については、これをそもそも著作物の利用ではないと捉える見解もある(※42)。また、実際の裁判例でも、

    ※40「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件」最判昭和53年9月7日判時906号.38頁

    ※41 斉藤博著『著作権法(第3版)』(有斐閣、平成19年4月)ほか

    ※42「主要な被写体の背景に何か絵らしき物が写っているという程度のものは、著作物の実質的利用というには足りず、著作権がそもそも働かない」(加戸守行著『著作権法逐条講義(五訂新版)』((社)著作権情報センター、平成18年3月))

    --42/94--  

    写真の中に書が写り込んでいる場合について、「複製」に当たるか否かを元の著作物の「創作的な表現部分が再現されているかを基準」とすべきとした上で、写真の中で3~8ミリメートル程度の大きさで撮影されている文字について、墨の濃淡、かすれ具合、筆の勢い等の各作品の美的要素の基礎となる特徴的部分を感得できないとして、「複製」にあたらないとした裁判例がある(※43)

    しかしながら、ネットオークションに用いられる商品の紹介用の画像については、特に絵画等の美術作品を紹介するためには、その内容や特徴が関知できる程度の画像とすることが一般的と考えられるため、「複製」に該当しない場合があるとしても、多くはないと考えられる。

    ② 現行法上の取扱い(「引用」に当たるかどうか)

    「引用」については、「公正な慣行に合致する」ことと「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる」ことが要件として規定されているが、裁判例においては、その内容は、利用する側の著作物と利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができること(明瞭区別性)と、両著作物の間に主従関係があること(附従性)であるとして捉えられてきている(※44)

    一方で、学説においては、この判例上の二要件を中心としつつ更に別の要件を加える見解や、この二要件を第32条第1項の文言のどこに結びつけるかについて見解が分かれているとされる。こうした観点から、第32条第 1 項の文言に沿って引用の要件を再構成しようとする見解が出てきており(※45)、その中から、ネットオークションにおける商品紹介の中で画像を掲載することは、第32条第1項の規定に該当すると考える見解も提案されている(※46)

    一方で、関係団体からのヒアリングにおいては、日本美術家連盟から、著作物とは言えない商品紹介の中での画像使用を「引用」と解釈することは、「引用」が本来予定している権利制限の範囲を超え、インターネットのみならず多くの著作物の利用が「引用」に該当することとなってしまう旨の意見が述べられている(※47)

    このように、引用の解釈については見解が分かれているほか、具体にネットオークションにおいて画像を利用する場合が「引用」に該当するかは、にわかに判断しがたいと考えられる。

    このような状況の下、本課題については、「引用」該当性の解釈の問題とせず、立法的検討を行うべきとの意見があった。

    ③ 権利制限による対応方策

    a 商品の取引を行う上で、商品情報の提供は、売り主に求められる義務として、

    ※43 「照明器具カタログ(雪月花)事件」東京高判平成14年2月18日判時1786号136頁

    ※44 「パロディ事件」最判昭和55年3月28日民集34巻3号.244頁 ほか

    ※45 上野達弘著『引用をめぐる要件論の再構成』(法学書院「著作権法と民法の現代的課題」より)

    ※46 田村善之著『絵画のオークション・サイトへの画像の掲載と著作権法』(知財管理Vol.56 No.9)

    ※47 第6回法制問題小委員会(平成19年7月19日)資料7

    --43/94--  

    必要不可欠なものである。特に隔地者取引の場合には、この義務を果たすために商品としての美術品等の画像の複製・掲載を行うことはやむを得ないものである一方、仮にこの画像掲載ができないことになると、本来、著作権(譲渡権等)の及ぶ範囲ではない取引行為にまで、事実上著作権によって影響が及ぼせる結果になってしまう。このため、この両者の調整の観点から、これらの取引行為のために必要な限度において、その取引に係る美術品等を画像として複製・掲載することについて権利制限の対象とすべきであるとの意見があった。

    b 一方で、例えば美術品や写真の場合、インターネット等に掲載された画像そのものが鑑賞に堪えられるものであるときには、販売目的以外で複製その他の利用が行われることが想定され、権利者の利益に及ぼす影響が大きくなると考えられることから、この弊害を抑える必要があるとの意見があった。

    この点については、インターネット上の画像の掲載に関しては、権利者に利益を不当に害することとなる場合を権利制限の対象から除外することが考えられるが、その他、例えば、複製を抑止するための技術的な保護手段を施すことや、商品情報の提供の際に必要な限度(画質、期間等)に限って掲載することなど、必要な条件について関係者の間でガイドラインを作成する等により必要な環境を整えていくことが考えられる。

    c なお、aの趣旨にかんがみれば、立法措置を行う場合には、権利制限の対象は、公売、オークションといった形式によらず、一般のショッピングサイト等も含めた制度設計とすべきと考えられる。

    ④ まとめ

    以上のことから、売り主が取引を行う際の商品情報の提供の必要性を根拠として、譲渡権等を侵害することなく美術品等を譲渡等することができる場合には、当該美術品等を画像として複製・掲載する行為について、権利制限を行うことが適当であると考えられる。なお、立法化にあたっては、権利者の利益を不当に害しないための条件について、取引の実務の状況等を踏まえて適切に検討を行いつつ進めていくべきものと考えられる。

    【参考:諸外国における立法例】

    ○ドイツ
    第58条 展示、公衆販売及び公衆に利用可能な施設における著作物
    (1) 造形美術の著作物及び写真の著作物で、公衆に展示され又は公衆への展示若しくは公衆への販売のために特定されたものを、広告のためにその主催者が複製し、頒布し、又は公衆提供することは、それらの行為が催しを助成するために必要なものと認められるときは、許される。

    --44/94--  

    第4節 検索エンジンの法制上の課題について (デジタル対応ワーキングチーム関係)

    1 問題の所在

    (1) 検討の背景

    「検索エンジン」は、インターネット上の情報の所在を検索する手段として、現在幅広く一般に用いられている。その仕組みを要約すると、自動的なプログラム(「クローラー」と呼ばれる)によって、インターネット上のウェブサイトの情報を間断なく収集し、そのデータをサーバに格納して、これを解析したものをデータベース化するとともに、利用者からの検索要求に応じてそのウェブサイトの所在等の情報を検索結果として表示するものということができる。

    これらの検索エンジンにおいて行われる行為は、格納あるいは表示される情報が著作物である場合、著作権の対象となるものであり、著作権法上の問題があるのではないか、との指摘がなされているが、その一方で、インターネット上に存在する膨大な著作物が自動的に検索対象となるため、権利者から逐一許諾をとることは現実的に不可能な状況にあるなど、検索エンジンによって検索サービスを提供する者(検索エンジンサービス提供者)の法的地位の安定性が確保されていないとの懸念が指摘されている(※48)

    他方で、検索エンジンは、利用者にとっては、インターネット上に無数に存在するウェブサイトの中から求める情報の所在を容易に探索する手段として必要なものであるとともに、インターネット上の情報の提供者にとっては、より多くの人にその存在を知らせる手段として有効に活用されているなど、いわば、デジタル・ネットワーク社会におけるインフラとして、ネットワーク上における知的創造サイクルの活性化に大きな役割を果たしている(※49)

    以上を踏まえれば、権利者の私権との調和に十分に留意しつつ、検索エンジンサービス提供者の法的地位の安定性確保に資する法制度のあり方を検討する必要性が生じているといえる(※50)

    ※48 検索エンジンサービス提供者の法的地位の安定性が確保されていないことが、結果として、コンプライアンス上の観点から検索エンジンサービスの展開に対して十分なリソースが集まりにくい要因となっているとの指摘がある。

    ※49 検索エンジンは、高度な情報処理技術を基礎としていることから、その機能向上のためには、有用技術の開発研究とその実用化が不可欠である(とりわけ、国内のウェブサイトの大多数は日本語を用いているため、これを検索対象とする検索エンジンの機能向上には、日本語解析・処理技術の一層の発展が不可欠であると指摘されている)。このため、多様な検索エンジンサービスが展開され、そのニーズに即した技術開発が推進されるという共進的なイノベーションモデルが国内に形成されるような環境整備が必要であるとの指摘がある。

    ※50「知的財産推進計画2007」(平成19年5月31日・知的財産戦略本部決定)においても課題として示されている。

    --45/94--  

    (2) 検索エンジンの仕組み

    検索エンジンサービスの提供に至る作業工程は、検索エンジンサービス提供者によ って細かな差異はあるものの、概ね以下の3つに類型化できる(図参照)。

  • 〈Ⅰ〉 ソフトウェアによるウェブサイト情報の収集・格納(クローリング)
  • 〈Ⅱ〉 検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積
  • 〈Ⅲ〉 検索結果の表示(送信)
  • なお、検索エンジンサービスには、ロボット型及びディレクトリ型と呼ばれるものが存在する。ロボット型とは、上記一連の工程を概ねソフトウェア処理によって自動的に行うものを指し、ディレクトリ型とは、上記のうち〈Ⅰ〉、〈Ⅱ〉の工程を人手によって行うものの通称であるが、検索エンジンサービスは、現在ではロボット型が大勢を占めており、この傾向は今後も変わらないようであるので、以下では、ロボット型を対象として検討を行う。

    【図 検索エンジンサービスの提供に至る作業工程】

    検索エンジンサービス提供に至る作業工程図解

    --46/94--  

    (Ⅰ〉 ソフトウェアによるウェブサイト情報の収集・格納(クローリング)

    検索ロボット(クローラー)と呼ばれるソフトウェアによって、ウェブサイト情報を収集し、そのデータをストレージサーバへ格納(蓄積)する工程である。

    クローラーは、訪れたウェブサイトの情報を解析し、そこに含まれるリンクをたどることにより、次々にウェブサイト情報のデータを収集するという動作を繰り返す。これにより世界中のウェブサイトを訪れ、訪れた先が新たなウェブサイトである場合は、そこから取得したデータをストレージサーバに格納する。

    このようなクローラーが行う収集・格納の行為は、ある一定の時間間隔をおいて繰り返し行われ(※51)、訪れたウェブサイトの情報が更新されている場合は、ストレージサーバに格納したデータも更新される。一方、クローラーが訪れようとしたウェブサイトが、削除等により、もはや存在していない場合は、ストレージサーバ中の当該ウェブサイトに対応するデータは削除されることとなる。

    ところで、このクローラーに対しては、ウェブサイト開設者に自身のウェブサイト情報が収集されないようにする方法が用意されている。具体的には、ウェブサイト開設者は、クローリングが行われないようにするための標準プロトコル(※52)を自身のウェブサイトに設定することで、技術的にクローリングを回避することが可能となる。

    〈Ⅱ〉 検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積

    〈Ⅰ〉でストレージサーバに格納されたデータを用いて、予め検索用インデックス及び検索結果表示用データを作成・蓄積する工程である。

    a 検索用インデックスの作成・蓄積

    検索効率の向上のために、ストレージサーバに格納されたウェブサイト情報 のデータを解析することにより、検索用インデックスを作成し、蓄積する工程 である。

    解析されるデータがテキスト情報である場合は、形態素解析やN-gram方式により(※53)、単語や文字を検索用インデックスとして抽出する。また、解析され

    ※51 この間隔は、更新頻度の高いウェブページについては短く、更新頻度の低いウェブページについては長く、という調整が行われることが多い。

    ※52 事実上の業界標準プロコトルとして、①The Robot Exclusion Protocol(REP)、②ロボットMETAタグが存在する。検索エンジンサービス提供者は、これらの仕組みについて自社のウェブページ上で紹介している。ウェブサイト開設者は、自らの必要に応じて、ウェブサイト上におけるクローリングを回避すべき範囲(全体又は一部)と検索ロボット(検索エンジンサービス提供者)を選択することが可能である。また、最近の動きとして、ACAP (Automated Content Access Protocol)、Sitemaps.org等の新たな標準プロトコル策定へ向けたプロジェクトも進められている。

    ※53 文章を単語に分解する方法として、形態素解析は、文章に含まれる単語を検索エンジンが備える辞書データと照合しながら単語に分解するものであり、N-gram方式は、文章をN文字の文字列に分解し、それを単語として認識するものである。

    --47/94--  

    るデータが動画や音楽などの情報である場合は、当該データが存在するウェブサイトにおけるウェブページ上の文字データ等を検索用インデックスとして抽出する。

    様々な検索用インデックスを用意することにより、文字検索にとどまらず画像検索等の多様な検索要求に対応できることとなる。

    b 検索結果表示用データの作成・蓄積

    ストレージサーバに格納されたウェブサイト情報のデータの解析によって、利用者からの検索要求に対する検索結果として表示するためのデータを作成・蓄積する工程である。これにより、検索結果を迅速に表示することができる。

    検索結果表示用データは、オリジナルのウェブサイトの内容を紹介することを目的として提供されるものであり、通常、オリジナルのウェブサイトへのリンク(URL等のウェブページの所在情報)と共に提供される。なお、オリジナルのウェブサイトが削除された場合は、検索結果表示用データも順次削除され、検索結果として表示されないようになる。

    代表的な検索結果表示用データは、以下のとおりである。

    【検索結果表示用データの代表例】(※54)

    スニペット 検索対象のテキストの数行の抜粋

    サムネイル 「親指の爪(thumbnail)」に由来した語であり、縮小された画像を意味する。オリジナルの画像ファイルのサイズを小さくし、解像度を落としている。ウェブページそのもののイメージを画像として提供しているものもある。

    プレビュー 動画の数シーンを切り出し、2、3秒の間表示する。

    キャッシュ・リンク ウェブページのアーカイブコピー。検索結果として検索エンジンが格納しているウェブページのコピー(キャッシュ)の表示を指し、オリジナルのウェブページへのリンクとともに表示される。キャッシュ・リンクは、アクセス障害等の技術的障害の発生によりオリジナルのウェブサイトへのアクセスができなくなった場合に、これに代替して表示されるものとして、あるいは検索用語をマーキングする等によってウェブページ上の知りたい情報の探知を容易にするツールとして用いられている。

    ※54 ヤフー株式会社による定義。

    --48/94--  

    〈Ⅲ〉 検索結果の表示(送信)

    利用者からの検索要求に対して、〈Ⅱ〉で作成・蓄積された検索用インデックスを用いてウェブサイト情報の検索を行い、同じく〈Ⅱ〉で作成・蓄積された検索結果表示用データを、ウェブサイトの所在情報(URL等)と共に検索結果として、利用者に送信する工程である。

    利用者側では、受信した検索結果表示用データに基づいてブラウザ等に表示が行われ、当該表示に基づいて、望むウェブページへのアクセスが行われることとなる。

    (3) 国際動向

    検索エンジンにおける著作物の利用行為に係る著作権法上の問題に関して、特別な規定を設けている諸外国の例は見られないが、著作権侵害の成否が争われた裁判例は、少なからず存在している。

    米国では、検索エンジンによる著作権侵害が問われた複数の裁判例(※55)が存在している。米国著作権法においては、著作権を一般的に制限するものとして、第107条のフェアユース規定(※56)が設けられており、裁判例の多くで、フェアユースの成否が争点となっている。もちろん、事案によって争点も事実関係も異なるため、一概には言えないが、結論だけに注目すれば、フェアユースの成立が認められた裁判例が多い。また、DMCA(デジタル・ミレニアム著作権法)により新設された第512条の免責条項が適用された例も存在する。

    欧州(※57)においても、著作権侵害の成否が複数判断されている。ドイツにおいては著作権侵害を肯定した裁判例と否定した裁判例(※58)が存在し、ベルギーにおいては、侵

    ※55 Field v. Google, Inc.事件(412 F.Supp. 2d 1106 (D.Nev. 2006))、Parker v .Google Inc.事件(422 F.Supp. 2d 492 (E.D.Pa. 2006))、Kelly v. Arriba Soft Corp.事件(77 F.Supp. 2d 1116 (C.D.Cal. 1999) ; 336 F.3d 811 (9th Cir. 2003))、Perfect10, Inc. v. Google, Inc.事件(416 F.Supp. 2d 828 (C.D.Cal. 2006) ; Perfect 10, Inc. v. Amazon.com, Inc., 487 F.3d 701 (9th Cir. 2007))。

    ※56 第107条(排他的権利の制限;フェアユース)「第106条及び第106A条の規定にかかわらず、批評、解説、ニュース報道、教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む)、研究又は調査等を目的とする著作権のある著作物のフェアユース(コピー又はレコードへの複製そのほか第106条に定める手段による使用を含む)は、著作権の侵害とならない。著作物の使用がフェアユースとなるか否かを判断する場合に考慮すべき要素は、以下のものを含む。

  • (1) 使用の目的及び性質(使用が商業性を有するか又は非営利的教育目的かを含む)。
  • (2) 著作権のある著作物の性質。
  • (3) 著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量及び実質性。
  • (4) 著作権のある著作物の潜在的市場又は価値に対する使用の影響。
  • 上記のすべての要素を考慮してフェアユースが認定された場合、著作物が未発行であるという事実自体は、かかる認定を妨げない。」

    ※57 2005年よりドイツ・フランスにおいては、国家プロジェクトとして「クエロ(Quero)計画」が展開されている(ドイツは途中で脱退)。

    ※58 サムネイル画像に関する、ハンブルグ地裁2003年9月5日判決、エアフルト地裁2007年3月15日判決。

    --49/94--  

    害が肯定され、領域内での著作物の利用中止が認められている(※59)

    また、アジアでは、韓国(※60)において著作権侵害を否定する裁判例がある(※61)

    以上、国際動向を概観すれば、検索エンジンにおける著作物の利用行為に係る著作権法上の問題の解決は、専ら裁判例の蓄積によって模索されているのが現状であるということができるが、その方向性は未だ流動的である。

    2 検討の概況

    (1) 現行法下での解釈による対応の可能性と論点

    検索エンジンにおける著作物の利用行為に関しては、現行の著作権法では、明文の規定は存在しないため、その取り扱いは解釈に委ねられる。したがって、まずは法目的に照らしつつ、現行法下での解釈による対応の可能性を模索し、その適否を踏まえた上で、権利制限規定等の新たな立法措置について考察するという順序で進めることとする。

    ① 検索エンジンにおいて行われる行為の著作権法上の位置づけについて

    検索エンジンにおいて行われる行為に関して著作権法上の取り扱いが問題となるのは、そのような行為が著作物の利用に該当する場合であるが、これに該当するか否かについては、行為類型毎の検討が必要である。

    〈Ⅰ〉 ソフトウェアによるウェブサイト情報の収集・格納(クローリング)

    この工程では、検索ロボット(クローラー)が、ウェブサイトにアップロードされたデータを収集し、ストレージサーバへ格納している。ストレージサーバへのウェブサイト情報のデータの格納は、機器利用時・通信過程における瞬間的・過渡的な一時固定であるとはいえず(※62)、当該データが文章や画像等の著作物である場合には、そのまま蓄積するものであるから、著作物の複製に該当するものと考えられる。

    〈Ⅱ〉 検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積

    ※59 Copiepresse v. Google ベルギー第一審裁判所判決(2006年9月5日)、第一審裁判所再審理判決(2007年2月13日)

    ※60 韓国では、NHN社が経営する「Naver」という国産の検索エンジンが大きなシェアを占めており、検索エンジンサービスはひとつの公益的業務と考えられている。

    ※61 大法院(最高裁判所)2006年2月9日判決。サムネイルの表示を「引用」に当たるとした原審の判断を支持した。

    ※62 平成18年1月の文化審議会著作権分科会報告書においては、デジタル化時代に対応した著作権のあり方について検討が行われ、機器利用時・通信過程における一時的固定に関し、ア 瞬間的・過渡的な蓄積であり「複製」ではないもの、イ 一時的固定のうち、権利を及ぼすことが適当ではないもの、ウ 一時的固定のうち、権利が及びうるもの、の三類型に整理されている。

    --50/94--  

    ストレージサーバに蓄積されたデータは、検索効率の向上のため、予めデータ解析が施され、検索用インデックス及び検索結果表示用データ(スニペット、サムネイル、プレビュー、キャッシュ・リンク等)として蓄積される。

    検索用インデックスは、単なる文字列、変換された数値データであり、オリジナルのデータが著作物であるとしても、その著作物性のない部分だけを用いているに過ぎないものと考えられる。したがって、検索用インデックスの作成・蓄積は、著作物の利用には該当せず、著作権法上の問題を生じないと思われる。

    これに対して、検索結果表示用データについては、オリジナルのデータが著作物である場合に、当該データが有する著作物性のある部分を含むものであって、その作成・蓄積が著作物の利用に該当するか否かは、一律に断ずることはできない。具体的には、スニペットについては、一般に利用者が用いた検索用語を中心にオリジナルの文章から前後数行の長さの文章をそのまま抜き取るものであり、オリジナルの文章が有する著作物性が再現されている場合がありうるが、再現されていない場合も考えられる。また、サムネイル及びプレビューについては、オリジナルの画像の解像度、動画の質及びサイズを落とすことによってもなお、当該画像が有する著作物性が再現されているか否か、さらに進んで、翻案に当たるまでの改変が施されているか否かは、ケース・バイ・ケースである。結局のところ、これらの作成・蓄積が著作物の利用に該当するか否かは、個別具体的に検討されなければならない。

    これに対して、キャッシュ・リンクは、オリジナルのウェブページをそのまま用いるものであることから、当該ウェブページが著作物であれば、その著作物性が再現されており、キャッシュ・リンクの作成・蓄積は著作物の利用に該当すると考えられる。

    〈Ⅲ〉 検索結果の表示(送信)

    検索結果表示用データは、ウェブサイトを紹介する手段として複数に組み合わせられた上で、ウェブサイトの所在情報とともに検索結果として、送信可能化の状態に置かれ、利用者からの検索要求に従って、自動公衆送信される。上述のように、検索結果表示データがオリジナルのデータの著作物性のある部分を含むものであって、その作成・蓄積が著作物の利用に該当する場合があるが、その場合には、検索結果の表示に際しては、著作物の送信可能化及び自動公衆送信が行われることとなる。

    ② 現行の権利制限規定(引用)による対応の可能性

    現行の権利制限規定の中で、検索エンジンにおける著作物の利用行為に適用される可能性があるのは、引用に関する第32条第1項である。

    検索結果表示用データとして作成されるスニペットやサムネイルを検索結果として表示する行為については、学説において、引用としての利用に該当しうると

    --51/94--  

    の見解がある(※63)。しかしながら、これらの表示方法は、検索エンジンサービスの改善の観点から様々な態様が追求されるとともに、検索技術やサービスの発展とともに刻々と変化していくものと考えられる。したがって、検索結果の表示の態様によっては、引用の範囲を超える場合もありうる。

    また、キャッシュ・リンクについては、「引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」であると評価することは困難であるとの指摘があるとともに、未公表の著作物(※64)が著作権者に無断でアップロードされた場合においては、「公表された著作物」の利用に当たらないと解されることから、第32条第1項が適用されると解釈することは困難であると考えられる。

    以上のように、第32条第1項が適用される場合があるとしても、同項によって、検索エンジンにおける著作物の利用行為が網羅的に許容されるという保証はないことから、検索エンジンサービス提供者が負う法的リスクを払拭するものとはならないといえる。

    ③ 黙示の許諾論による対応の可能性

    a 黙示の許諾に関する解釈の可能性

    現在、インターネット上の情報を検索するために、検索エンジンが広く利用されている。こうした状況の下で、インターネット上に開設されたウェブサイトにアップロードされた著作物の著作権者は、通常、当該著作物が検索エンジンの検索対象となることを予見しており、また、それによって当該著作物へのアクセスが増加することを期待していると思われる。また、ウェブサイト開設者は、自己のウェブサイトにアップロードした自らが著作権を有する著作物や別の権利者からアップロードの許諾を得ている著作物がクローリングされないようにするための標準プロトコル(以下「技術的回避手段」という。)を設定することによって、当該著作物が検索エンジンにおいて利用されることを回避することが可能である。すなわち、ウェブサイトにアップロードした著作物が検索対象となることを望まない場合は、ウェブサイト開設者が技術的回避手段を行使することによって、容易にそれを実現することができる。

    以上の事情を勘案すれば、ウェブサイトにアップロードされ、技術的回避手段が行使されなかったことをもって、検索エンジンにおける著作物の利用が黙示的に許諾されたと推認することができるとの考え方がありえよう。

    b 黙示の許諾論による対応における課題

    しかしながら、このような解釈自体は、著作物の利用に際して予め適法性を保証するものではないことから、検索エンジンサービス提供者が法的リスクを

    ※63 田村善之「検索サイトをめぐる著作権法上の諸問題-寄与侵害、間接侵害、フェア・ユース、引用等-」知的財産法政策学研究16号(平成19年)掲載予定を参照。

    ※64 著作権者又はその許諾を得た者によって公衆に未だ提示・提供されていない著作物を指す(著作権法第4条)。

    --52/94--  

    負うおそれを払拭するものとはならない。例えば、著作権者が技術的回避手段の存在を知らなかった場合や、著作権者の許諾なく著作物がアップロードされたウェブサイトが検索対象となってしまった場合においては、著作権者は技術的回避手段を用いることにより事前にその著作物が検索対象となることを回避することができず、このため黙示の許諾があったと推認することは困難である。

    なお、検索エンジンサービス提供者のリスクは、法制度の運用面での工夫やサービス提供者の未然防止策の充実によって、一定程度低減させることが可能との指摘もある。例えば、合理的な差止範囲の設定のあり方(※65)や故意及び過失の判断基準等に関して、一定の見解を提示することによって予見性を高める、あるいは技術的回避手段の普及や違法にアップロードされた著作物を掲載するサイトの自動検知システムの開発等を通じてリスクの低減を図るというものである。しかし、法的リスクを完全に解消することは困難であり、検索エンジンサービス提供者側のリスク評価によっては、事業遂行上の安定性を保証しうるとは限らない。

    ④ 権利濫用の法理による対応の可能性

    検索エンジンにおいて著作物の利用があっても、これに対する権利者の権利行使が、社会妥当性を超えたものであり権利濫用として許されないと判断される場合が考えられる。しかしながら、権利濫用の法理の適用は、権利行使による権利者の利益と検索エンジンサービス提供者の受ける損害もしくは検索エンジンが有する流通促進機能との利益衡量の問題となり、そもそも、著作物の利用に際して予め適法性を保証するものではないことから、その法的リスクを払拭するものとはならない。

    (2) 立法措置による対応の可能性と論点

    ① 権利制限規定の立法による対応の可能性

    権利制限は、著作物の公正な利用を図るという観点から設けられるものであり、権利者の私権との調和を図りつつ検討することが必要である。また、ベルヌ条約第9条(2)や著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)第10条に規定されているスリー・ステップ・テストの要件を満たす必要があることは言うまでもない。

    a 権利制限の対象とする合理的根拠

    検索エンジンにおける著作物の利用行為については、以下の(ア)、(イ)、(ウ)

    ※65 例えば、著作物を特定して、永久的にクローリングないし表示してはならないという差止が予想されるが、この場合、技術的に同一の著作物を判別することは不可能となることから、そもそも適切な対処を講ずることができない。

    --53/94--  

    及び(エ)の観点から、権利制限を設ける合理的根拠は存在するものと考えられる。

    まず、(ア)検索エンジンは、インターネット上に存在する著作物の所在情報を効率的に提供することを可能とし、著作物の流通を促進する、いわば社会インフラ的な役割を果たすものということができる。また、(イ)検索エンジンにおける利用行為は、著作物の提示や提供自体を目的としているものではなく、たいていの場合、著作権者の著作物利用市場と衝突するものではない。したがって、これらの行為は、著作権者の利益に悪影響を及ぼさないことが通常であり、むしろ著作物を広く周知したい著作権者の利益ともなるものであり、著作物の流通促進に資することで、文化の発展に寄与するものであると考えられる。

    そして、(ウ)インターネット上に存在する無数の著作物が検索対象となるため、検索エンジンサービス提供者が、著作権者から事前に利用許諾を得ることは事実上不可能であることから、権利制限を設ける必要性は高い。これらに加えて、(エ)実際上、インターネット上に開設されたウェブサイトにアップロードされた著作物の(全てではないとしても)多くについては、その著作権者は、検索対象となることを予見し、検索エンジンにおいて利用されることを黙示的に許諾していると考えられる。

    スリー・ステップ・テストとの関係では、検索エンジンにおける利用行為という「特別な場合」であり、専ら検索を目的とし、著作物の提示や提供自体を目的とするものでないのであれば、原則として、「著作物の通常の利用」を妨げず、また「著作者の正当な利益を不当に害しない」ものということができるから、この要件は満たされると考えられる。

    b 権利制限上の課題

    権利制限の制度設計に当たっては、検索エンジンに期待される著作物の流通促進機能が十分に確保されるよう留意しつつ、その一方で、検索エンジンにおける著作物の利用行為に伴って権利者が受ける損害の程度と利益との比較衡量についても勘案する必要がある。

    この場合、第一に、権利制限の対象範囲をどのように画定するのか(c)、第二に、権利者の保護のために、権利者がその著作物が検索対象として利用されることを拒否する旨の意思を有している場合(d)や、著作権者の許諾なくアップロードされた違法複製物が検索対象となってしまった場合(e)、さらには著作者人格権に関する問題(f)にどのように対応するのかが論点となる。

    c 権利制限の対象範囲(※66)

    権利制限の対象範囲については、原則として、(ⅰ)検索エンジンの「目的」という主観面と、(ⅱ)検索エンジンにおいて行われる「行為」という客観面の

    ※66 なお、米国著作権法第107条が定めるフェアユースに相当するような規定のあり方についても検討すべきとの指摘もあった。

    --54/94--  

    組合せで規定するのが適切であると考えられる。さらに、権利制限規定の制度運用上の安定性を確保する観点から、(ⅲ)検索エンジンサービスの「属性・機能」に関しても規定すべきかどうかについて検討する必要がある。

    ⅰ) 検索エンジンの目的

    権利制限の対象とすべき検索エンジンは、利用者の求めに応じ著作物の所在情報を提供し、著作物の内容の紹介を通じて、その著作物が存在するオリジナルのウェブサイトへの誘導を専ら目的とするものであると定義するのが適当と考えられる。これは、検索エンジンが、この目的を超えて、オリジナルのウェブサイトに取って代わるものとなれば、権利者の利益に悪影響を及ぼすおそれがあるからである。

    ⅱ) 検索エンジンにおける行為

    検索エンジンにおける行為については、その行為の性質上、〈Ⅰ〉ウェブサイト情報の収集・格納、〈Ⅱ〉検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積、〈Ⅲ〉検索結果の表示(送信)、の3つの工程に区分した検討が必要である。

    〈Ⅰ〉 ウェブサイト情報の収集・格納

    ウェブサイト情報の収集・格納の工程中、著作物の利用に該当する行為については、検索エンジンサービスを提供する上で不可欠な技術的工程で行われるものであり、かつ、この時点では、行為自体はシステム内でのみ行われ、公衆の目に触れることはないことから、権利者への影響は限定的なものに止まる。したがって、権利制限の対象とする妥当性は認められるものと考えられる。また、問題となる行為は、ウェブサイトにアップロードされた著作物をそのままの形で蓄積(複製)するものであり、権利制限対象範囲についても容易に画定することができると考えられる。

    〈Ⅱ〉 検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積

    検索インデックス及び検索結果表示データの作成・蓄積の工程中、検索インデックスの作成・蓄積は著作物の利用には該当しないのに対し、検索結果表示用データの作成・蓄積は著作物の利用に該当する場合があると考えられるが、その場合の行為についても、〈Ⅰ〉と同様に、検索エンジンサービスを提供する上で不可欠な技術的工程で行われるものであり、かつ、この時点では、行為自体はシステム内でのみ行われ、公衆の目に触れることはないことから、権利者への影響は限定的なものに止まる。そのため、この行為についても、権利制限の対象とすることは問題ないであろう。

    他方、検索結果表示用データの態様は、提供される検索サービスによって決定されるものであるため、〈Ⅰ〉とは異なり、著作物の利用としての検索結果表示用データの作成・蓄積は多様であると考えられる。例えば、検索エンジンサービス提供者の表示方法によっては、スニペットのみを作成・蓄積の対象とする場合から、サムネイルやキャッシュ等をも用いる場

    --55/94--  

    合など、著作物の利用形態は大きく異なるといえる。したがって、権利制限対象範囲については、ある程度包括的に規定することが望ましいと考えられる。

    〈Ⅲ〉 検索結果の表示(送信)

    検索結果の表示(送信)の工程中、著作物の利用に該当する行為は、公衆の目に触れるものであり、検索エンジンサービス提供者は著作物の提示や提供自体を目的としていなくとも、その表示方法の態様によっては、利用者に対して著作物の提示や提供と同等のものとして作用し、結果として権利者の利益に悪影響を及ぼすこととなる可能性を含んでいる。

    その一方で、上述したように、検索結果用表示データの態様は提供される検索エンジンサービスによって決定されるものであり、検索結果の表示方法は、検索エンジンサービス提供者にとっては、そのサービスの差別化を図る上で不可欠な部分であると考えられる。したがって、その表示方法については、サービス向上の観点から様々な態様が追求されるとともに、検索技術やサービスの発展とともに刻々と変化していくものと考えられる。

    このため、著作物の利用形態は多様かつ変動する可能性が高く、予めその外縁を画定することは困難である。

    以上を踏まえれば、利用者に対して著作物の提示や提供と同等のものとして作用しない場合に権利制限の対象とすることに問題はないと思われるが、そのように作用する場合がありうることを考慮すると、権利制限対象範囲をどのように規定すべきか、すなわち、包括的に規定する方法と個別列挙によって限定的に規定する方法のいずれが適切であるか、が論点となる。

    仮に、権利制限対象範囲を包括的に規定するとした場合、新たな利用形態が発生する度に権利制限の対象とするか否かを検討する必要はなくなる反面、権利者の利益に悪影響を及ぼすおそれのある利用形態まで包含してしまう可能性が高まるものといえる(※67)。他方、個別列挙方式によって限定的に規定するとした場合、権利制限対象範囲に含まれない行為が直ちに侵害と解されることによって、検索エンジンのサービス形態が法制度によって限定されてしまい、かえって検索エンジンの健全な発展を阻害するおそれがあるとの指摘もある。

    したがって、権利制限対象範囲の画定に当たっては、検索エンジンの流通促進機能と権利者の私権との調和が十分に図られるよう、慎重に検討を進めていくことが必要不可欠である。

    ※67 後述するように、著作権者が検索対象として利用されることを拒否する旨の意思表示をしている場合に権利制限の対象外とする措置が講じられるのであれば、包括的に規定することによって生じる問題は、一定程度解消されることになると思われる。

    --56/94--  
    ⅲ) 検索エンジンサービスの属性・機能

    前述のとおり、検索エンジンにおいては、ロボット型とディレクトリ型が存在するが、現在では、ロボット型がその大勢を占めるに至っていること、また、ディレクトリ型の場合、ウェブサイト情報の収集が人手によって行われることから、事前に許諾を受けることも可能であることを踏まえれば、権利制限の対象とすべき検索エンジンサービスは、ロボット型とすることで十分ではないかと考えられる。

    また、検索対象の網羅性、検索結果表示における公平性、検索エンジンサービス提供者の規模や信頼性については、利用者側のニーズによって市場原理の下で決定されていく属性・機能であることから、権利制限の要件に含めるべきではないと考えられる。これに対して、これらが権利制限に係る制度運用の安定性の確保にとって重要なものであるならば、要件として規定することも検討すべきとの指摘があった。

    d 権利者保護への対応

    検索エンジンにおける著作物の利用は、著作権者の利益に悪影響を及ぼさないことが通常であり、むしろ著作物を広く周知したい著作権者の利益ともなるものと考えられる。また、前述したように、権利制限範囲は、権利者の私権と十分に調和するように画定されるべきである。しかしながら、それでも、権利者や著作物等をめぐる個別的な事情により、権利者の利益に悪影響が及ぼされるおそれがある場合がありえよう。このような場合には、権利者の私権との調和の観点から、何らかの対応を講ずるべきであると思われる。

    権利者保護への対応措置を講ずるとして、検索エンジンにおける著作物の利用が自動的に行われるものであり、検索エンジンサービス提供者が権利者や著作物等をめぐる個別的な事情を認識することは現実的に不可能であることにかんがみれば、権利者が検索対象として利用されることを拒否する旨の意思表示を行うことを必要とすべきであると考えられる。

    ⅰ) 技術的回避手段による意思表示

    検索対象として利用されることを拒否する旨の意思表示として、技術的回避手段の行使がある。検索エンジンサービス提供者は、ウェブサイトに標準プロトコルが設定されていれば、クローラーが当該ウェブサイトの情報を収集しないという技術的回避手段を用意していることが通常である。そのため、権利者は、当該著作物が検索対象として利用されたくない場合には、技術的回避手段を行使すれば、これを回避することができる。そして、検索エンジンサービス提供者は、技術的回避手段を準備しておけば、それ以上の負担なしに、当該著作物を検索対象に含めないことができる。このように技術的回避手段の行使は極めて便宜的なものであることから、権利者が、技術的回避手段の行使により、

    --57/94--  

    検索対象として利用されることを拒否する旨の意思表示をした場合には、権利者保護のために、当該著作物を権利制限の対象外とすることが考えられる。

    ただし、技術的回避手段については、その存在が権利者に十分周知されていないという指摘があることから(※68)、権利者が意思表示を行う機会を十分に確保するために、今後は検索エンジンサービス提供者において、当該手段の周知普及に努めることが求められる(※69)

    ⅱ) 技術的回避手段以外による意思表示

    基本的には、検索エンジンによる検索対象として利用されたくない場合には、権利者は技術的回避手段を行使すれば足りる。技術的回避手段の行使は、権利者にとって容易に行うことのできるものであり、検索エンジンサービス提供者にとっても大きな負担を負うことなく対応することのできるものであるから、利用を拒否する意思表示の方法をこれに限定するという考え方もありうる。しかしながら、何らかの理由で技術的回避手段が利用できないような場合(※70)や、技術的回避手段が行使されたのが検索エンジンによる検索対象となった後であり、その行使時点と実際にクローラーが判別してウェブサイト情報の収集を中止する時点の間に相当なタイムラグが存在する場合には、技術的回避手段以外の方法、例えば電話や郵便、メールによる意思表示によって、検索対象から回避したいという要望があると考えられる。このような要望を実現するためには、例えば、権利者が、技術的回避手段以外による意思表示に基づき、合理的な期間内に当該著作物の利用停止又は削除を請求できるような措置を講ずることとなろう(※71)

    他方、技術的回避手段以外による意思表示に基づく措置を講ずることは、特に利用停止又は削除が多数請求されるようになると、権利制限の安定性に影響を与え、権利制限を設ける意義を損なうことになるおそれがある。そのため、このような措置を講ずることが必要であるかどうか、また、講ずるとしても、一定の理由に基づく意思表示の場合に限るべきかどうか等について、上記要望の実態を踏まえつつ検討しなければならない(※72)

    ※68 技術的回避手段の代表的な方法である「robot.txt」と「ロボット検索防止タグ」について、両方とも知らない人が6割を超えるとのアンケート調査結果がある。三浦基/小林憲一「検索エンジンと著作権」放送研究と調査2006年8月, p68-69

    ※69 例えば、検索エンジンサービス業界におけるプロトコルの標準化及び普及促進並びにそれに向けた体制の整備などが挙げられる。これについては、欧米においては、ACAPやsitemap.orgなど、国内においては、大手検索エンジンサービス提供会社にて構成される「検索と著作権」検討協議会において検討 がなされている。

    ※70 例えば、ブログ等については、そもそも技術的回避手段を個々の権利者単位で行使することができない場合があると指摘されている。

    ※71 この場合、利用停止ができれば足りるのか、サーバ内に蓄積された情報の削除まで必要であるのか、技術的に検索エンジンサービス提供者がどこまで対応可能なのかについては、別途検討が必要である。

    ※72 なお、肖像権やプライバシーの権利に基づいて利用停止・削除の要請があった場合の検索エンジンサービス提供者の対応とのバランスについても論点となるのではないかとの意見もあった。

    --58/94--  
    e 違法複製物への対応

    著作権者の許諾なくアップロードされた著作物(以下「違法複製物」という)を、検索エンジンが検索対象としてしまう場合がある。この場合は、著作権侵害の拡大を防止する観点から、本来は権利制限の対象外とすることが望ましいが、検索エンジンは、ウェブサイトから自動的に情報を収集するため、違法複製物を蓄積したり、表示したりすることを事前に回避することは、技術的に不可能である。したがって、違法複製物を権利制限の対象外とする場合には、検索エンジンの本来の機能が損なわれることになる。

    以上を踏まえれば、違法複製物であっても、一旦権利制限の対象としつつも、検索エンジンサービス提供者に対して、事後的に違法複製物の利用停止又は削除の措置を講ずるよう義務づけることで、実質的に権利者の利益が不当に害される事態が生じないようにすることが適切である。なお、当該利用停止又は削除義務については、検索エンジンサービス提供者の責任範囲を明確にするよう、プロバイダ責任制限法(※73)第3条の規定も参考にしつつ、他人の著作権が侵害されていることを知った場合、または、他者の著作権を侵害するものであることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があった場合に限るものとすることが考えられる。

    f 著作者人格権に関する問題

    これまでの検討は著作権との関係に関するものであったが、検索エンジンにおける著作物の利用は著作者人格権との関係でも問題を生じうる。

    公表権との関係では、検索対象が未公表著作物であり、検索結果として当該著作物が表示される場合には、公表権が侵害されることとなるが、検索エンジンでは、この侵害を事前に回避することは技術的に不可能である。しかしながら、実際上、検索エンジンサービス提供の過程において膨大に発生する複製や自動公衆送信といった著作物の利用により問題となる著作権の侵害と比較すると、未公表著作物が検索対象となることにより公表権の侵害が問題となるケースは少なく、公表権の侵害が成立するとしても、それが検索エンジンの流通促進機能に与える影響も小さいと考えられる。したがって、本件は、個別具体的に対応すべきであって、公表権の制限を行う必要性は必ずしも高いとはいえないが、重大な問題が発生しうるケースが想定される場合においては、改めてその可否について検討することが必要である。

    次に、氏名表示権との関係では、検索結果として著作者名が表示されなくても、オリジナルのウェブサイトの所在情報が一緒に表示されていれば、第19条第2項により、氏名表示権の侵害とならないと解することができると考えられるが、検索対象となった著作物が氏名表示権を侵害している場合には、検索

    ※73 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)

    --59/94--  

    結果の表示においても侵害が成立することになる可能性がある。しかしながら、このような氏名表示権の侵害が問題となるケースは実際上、公表権の場合と同様に少ないと考えられることから、その対応についても、同様のものとなろう。

    最後に、同一性保持権との関係では、まず、スニペットがオリジナルの文章を抜き出したものであり、サムネイルがオリジナルの画像の解像度を落としているなど、検索対象となった著作物が変更されることが問題となる。この点、検索エンジンにおける利用の目的及び態様に照らし、第20条第2項第4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるとも考えられよう。次に、検索対象となった著作物が同一性保持権を侵害して作成されたものである場合についても、検索エンジンにおいて変更が行われていないならば、第20条第1項は「改変」のみを対象としていることを理由に、同一性保持権の侵害が成立しないと解するか、あるいは変更が行われているとされても、「やむを得ないと認められる改変」に当たると考えられよう。

    ② 利用許諾の推定(又は擬制)規定の立法による対応の可能性

    立法措置による対応として、2(1)③で述べた「黙示の許諾論」における考え方を、法制的に明確化する方法も考えられる。すなわち、技術的回避手段の行使によって検索対象として利用されることを拒否する旨の意思表示がなされていない場合、利用の許諾が行われたものと推定する(又は擬制する(※74))旨を明文化することで、法的な予見性を高めるものである。

    ただし、著作権者の許諾なくアップロードされた違法複製物を検索対象としてしまう場合においては、検索エンジンサービス提供者は、法的責任を負うおそれがあることから、事業遂行上の不安定性を払拭することは困難である。したがって、権利侵害を停止する一定の措置が講じられる限りにおいて、検索エンジンサービス提供者の責任制限が認められるようにすることが必要となろう。

    ③ プロバイダ責任制限法類似の特別立法による対応の可能性

    検索エンジンサービス提供者に関して、事業遂行上のリスクとなりうる損害賠償責任を制限する観点から、プロバイダ責任制限法に類似した特別立法を講ずる方策も考えられる。

    この場合、著作権法上の侵害責任のみならず、プライバシー侵害責任等も含め、包括的に責任制限することが可能となり、検索エンジンサービス提供者に一層の安定的な地位を保証することが可能となる。他方、刑事責任は免責されないことに加え、差止請求に対する免責がなされないため、差止請求の態様によっては、検索エンジンサービスの円滑な事業遂行を困難にする可能性が考えられる。

    ※74 擬制規定とする場合、検索エンジン提供者の法的な予見性は一層高まるが、他方で、権利者が事後的に収集された情報の利用停止又は削除を請求する手段の保証が必要となると思われる。 --60/94--  

    (3) その他の論点

    ① 準拠法の問題

    検索エンジンサービスにおいては、侵害問題に関して、どの国の著作権法が適用されるのかについても問題となる。民事の場合、不法行為については「結果発生地原則」(「法の適用に関する通則法第17条」)により、日本国内で複製が行われているとすれば当該複製については日本法が適用されることとなる(※75)。しかし

    ながら、インターネット上での著作物の公衆送信については、「結果発生地」は、発信国、すなわち、著作物が発信されるサーバの所在地であるか、受信地、すなわち、サーバにアクセスして著作物を受信した者が所在する地であるかの争いがある。したがって、法制度の検討に際しては、かかる点についても留意することが必要である。

    ② 検索エンジン以外の利用行為との整合性

    また、インターネット上の利用行為については、検索エンジンサービスに類似するようなサービスが存在しており、それらに対して与える影響についても、留意して検討すべきとの意見があった。

    3 検討結果

    本節冒頭で論じたとおり、検索エンジンは、デジタル・ネットワーク社会における情報流通の利便性を向上させ、ネットワーク上における知的創造サイクルを活性化さ せる原動力として期待される。

    したがって、検索エンジンにおける著作物の利用行為が、著作権法上の課題を惹起している現状を踏まえれば、著作者の権利との調和について衡量し、総体として文化の一層の発展に寄与するものとなるよう、法制度のあり方を検討する意義は大きい。

    かかる検討に当たっては、まずは、法目的に照らしつつ、現実的妥当性が確保されるものとなるよう、現行制度における解釈による対応の可能性が模索されるべきである。しかしながら、第2-1節において論じたように、現行の著作権法下では、どのような解釈論にたつとしても、検索エンジンサービスの一連の行為に関する法的リス クを必ずしも払拭することはできない。

    以上を踏まえれば、著作者の権利との調和と安定的な制度運用に慎重に配慮しつつ、権利制限を講ずることが適切であると結論づけられる。したがって、権利制限の対象範囲のあり方、権利者保護のあり方など残された論点について、早急に結論を得るとともに具体的な立法措置のあり方を明らかにすることが不可欠である。

    ※75 また、刑事の場合は「積極的属人主義」(刑法施行法第27条)がとられているため、日本人(法人)がサーバを米国において複製行為を行っても日本の著作権法が適用されることとなる。

    --61/94--  

    第5節 ライセンシーの保護等の在り方について (契約・利用ワーキングチーム関係)

    1 検討の背景・経緯

    (1) ライセンシーの保護

    破産法においては、双方未履行の双務契約については破産管財人の解除権が認められており(同法第53条)、ライセンサー(許諾者)が破産した場合には、破産管財人はライセンス契約を解除することができる。ただし、賃貸借その他の使用および収益を目的とする権利を設定する契約については、相手方が当該権利について登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えているときは、同法第53条は適用しないとされる(同法第56条)。

    著作権法においては、著作権契約におけるライセンシー(利用者)が第三者に対抗するための制度がないため、著作権者等が破産した場合、ライセンシーは引続き当該著作物等を利用することについて破産管財人に対抗することができず、ライセンシーの地位が不安定になっている。また、著作権等が第三者に譲渡された場合も同様である。

    そこで、文化審議会著作権分科会では、平成14年から検討を行い、平成16年1月に、ライセンシーの保護は対抗要件の制度とし、登録による公示の制度を基本とすべきこと、他の知的財産権との整合性がある制度とすべきことなどの提言を行った。(参 考資料2参照)

    一方特許等の分野では、従来から通常実施権登録制度による対抗要件によってライセンシーの保護が図られうる状況であったが、包括的ライセンス契約など個々の特許を特定しないライセンス契約については通常実施権登録制度を活用することができず、ライセンサーが破産した場合には、破産管財人により契約が解除されるおそれがあったところ、平成19年の産業活力再生特別措置法の改正により、特定通常実施権登録の制度が創設され、「特定通常実施権許諾契約(※76)により通常実施権が許諾された場合において、当該許諾に係る通常実施権につき特定通常実施権登録簿に登録したときは、当該通常実施権について、特許法第99条第1項の登録(※77)があったものとみなす」(同法第58条第1項)などの規定が設けられた。

    ※76 「特定通常実施権許諾契約」とは、法人である特許権者、実用新案権者又は特許権若しくは実用新案権についての専用実施権者が、他の法人に、その特許権、実用新案権又は専用実施権についての通常実施権を許諾することを内容とする書面でされた契約であって当該書面に許諾の対象となるすべての特許権、実用新案権又は専用実施権に係る特許番号又は実用新案登録番号が記載されているもの以外のものをいう(産活法第2条第20項)。

    ※77 「通常実施権は、その登録をしたときは、その特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる。」 --62/94--  

    このようなことから、特許等におけるライセンシーの保護については、新たな制度の創設により対応が図られたところであり、著作権制度についても関係者の意見を踏まえながら、具体的な制度設計を検討する必要が生じた。

    (2) 利用権の創設

    著作権法においては、著作権者は他人に対しその著作物の利用を許諾することができ(第63条第1項)、ライセンシーは「(第1項の許諾に係る著作物を)利用する権利」をもつような規定(同条第3項)があるものの、産業財産権制度における専用実施権(排他的な実施権で、登録により効力が発生するもの)に相当する内容の権利が規定されていない。

    例えば、著作権者から利用の許諾を受けたライセンシーには、出版権の設定を受けた場合を除き、産業財産権制度における専用実施権のように物権的な権利が与えられておらず、第三者に当該著作物を利用されている場合に差し止めることができない。このため、実務上、利用できる期間や地域などが限定された形で権利の譲渡を受け、当該著作物を利用するという方法が採られる場合もあるが、このような方法は、法律関係を複雑にするため、必ずしも好ましくないとの意見があり、産業財産権のように著作権法上明確に位置付けて、物権的な権利を創設することや、第三者への対抗要件として独占的な利用許諾を登録する制度を創設すること等について検討すべきであるとの指摘がある。(参考資料2参照)

    2 「ライセンシーの保護」及び「利用権」に関する関係者の意見

    平成18年10月から12月にかけて各業界や法曹関係者に対しヒアリングを行った ところ、以下のような意見があった。

    (1) ライセンシーの保護について

    ① エレクトロニクス、IT産業、ソフトウェア産業

    コンピュータ・プログラムの業界では、ライセンシーを保護する制度を必要とする意見が比較的多かった。

    とりわけ、エレクトロニクス・IT産業では、非独占的利用許諾契約(サブライセンスを含む。)に基づく利用の継続を担保するため、ライセンシーを保護する制度が必要である(独占性を保護する必要はない)という意見が多かった。

    ソフトウェア(パッケージ)産業でも、現実にトラブルが生じた例はあまりないが常にリスクを感じており、ライセンシーを保護する制度は必要であるという意見であった。

    ただし、ソフトウェア(ゲーム)産業では、ライセンシーの保護を必要とする場面は少なく、ライセンシーを保護する制度が必要であるという積極的な意見は

    --63/94--  

    みられなかった。

    ② 書籍出版産業

    何らかの形でライセンシーを保護する制度が設けられることは、手続き面や費用面で合理的であればよいが、書籍出版の分野では、著者と出版社との関係が緊密である場合が多く業界の秩序が円満に形成されているため、積極的に制度化を求める意見は少なかった。

    ③ 映像産業

    映像の業界では、ビデオ、DVD等のパッケージビジネスにおいても放送のビジネスにおいても、排他的利用許諾契約(サブライセンスを含む)に基づく利用が基本であるが、ライセンシーの保護が必要となるケースは少ないので、登録等の手続を経てまで対抗要件の具備を求める意見はなかった。

    また、登録制度についても、パッケージビジネスでは契約内容を登録することを嫌がるライセンサーも多いので共同申請による登録制度では機能しない可能性があるとか、放送のビジネスでは日々膨大な数の番組が制作されているので登録制度そのものの利用が不可能であるとの意見があった。

    ④ 音楽(パッケージ)産業

    レコード製作の分野では、ライセンシーの保護が必要となったような実例がなく、制度の必要性について積極的な意見はなかった。

    ⑤ コンテンツ配信産業

    コンテンツ配信産業の分野でも、ライセンサーとライセンシーとの間の信頼関係が成立しており、ライセンシー保護のための制度を設けることについて積極的な意見はなかった。

    (2) 利用権について

    ① エレクトロニクス、IT産業、ソフトウェア産業

    エレクトロニクス、IT産業、ソフトウェア産業の分野では、非独占的ライセンスが排除されるような性質の権利については、否定的な意見であった。

    ② 書籍出版産業

    書籍・出版の分野では、現行の出版権以外の利用(例えば電子出版等)について、独占的・排他的な利用権が創設されることが望ましいという意見があった。

    ③ 映像産業

    映像の分野では、ビデオソフトメーカーは、ライセンサー、ライセンシーのどちらにもなりうる立場から、排他的利用権について、第三者対抗としての効果は

    --64/94--  

    必要であるが、差止請求権については、その濫用を危惧する等、慎重な意見が強 かった。

    ④ 音楽(パッケージ)産業

    レコード製作の分野では、利用権の創設について積極的な意見はなかった。

    ⑤ コンテンツ配信産業

    コンテンツ配信の分野では、コンテンツ配信事業者に「配信利用権」(配信原盤の製作者や出資者に対する著作隣接権のような権利)を付与してほしいという意見があった。

    3 検討結果

    (1) ライセンシーの保護

    ① 検討の方向性

    ライセンシーの保護については、関係業界のヒアリング内容を整理すると、

  • ア 著作物を利用できる地位の保護、
  • イ 著作物を利用できる条件の保護(契約内容の承継)、
  • ウ 著作物を独占的に利用できる地位の確保、
  • の観点から意見があったが、イについては後述するとおり、本分科会でもすでに一定の考え方が示されており、また、ウについてはいわゆる「利用権」の問題として検討することとし、まず、アの観点を中心に検討した。

    なお、ライセンシーの保護に関する要望のうち、上記ア.に関する要望が比較的強いのはコンピュータ・プログラム業界であった。

    また、特許等について特定通常実施権登録の制度が創設されたことを考慮すると、可能な限り特許等の登録制度との整合性を図りつつ制度設計する必要がある。

    ② 著作物を利用できる(許諾を受けた)地位の保護のための登録制度の概要

    A 登録の概要

    著作権のライセンサー及びライセンシーは、ライセンス契約(※78)(包括的ライセンス契約を含む)で設定された、「許諾に係る著作物を利用する権利」を、国に備えられた新たな登録原簿に登録することができることとすることが適当と考えられる。

    ※78 本報告書でいうライセンス契約とは、1件の契約により2以上の著作物の著作権をまとめて許諾するライセンス契約を含み、本ライセンス契約の対象となる著作物とは、既に存在する著作物が将来バーションアップ等されてできるであろう著作物など、現時点では個別に特定できない著作物を含む。

    --66/94--  

    新たな登録原簿へ登録する場合、許諾の対象となる著作権の特定方法は、詳細な明細書や複製物の提出などを求めないなど、登録制度の利用者にとって簡便な手続きとなるよう考慮する。

    B 登録の対象となる権利

    登録の対象となるのは、ライセンス契約によって許諾された、「許諾に係る著作物を利用する権利」とすることが適当と考えられる(※79)

    包括的ライセンス契約において、登録後に発生する著作権も含めて許諾対象としていた場合には、当該著作物の利用に関する権利も登録の対象に含まれると考えられる。

    したがって、著作物ごとに登録原簿を調製する現行制度とは異なり、ライセンサーごとに登録原簿を調製することが適当と考えられる。

    C 登録を申請することができる者

    申請は原則としてライセンサーとライセンシーの共同申請によることが適当である。

    ライセンサー及びライセンシーについては、法人である場合も自然人である場合もあるが、もともと著作物は自然人たる個人が創作するケースが多く、個人がライセンス契約の当事者となるケースも考えられることから、基本的には法人・個人のいずれであっても申請できるようにすべきと考えられる。

    一方、個人が当事者となるライセンス契約は稀であり、さらに、当事者と同姓同名の者の登録がある場合には、登録事項がデータベース化されていても検索対象が特定しづらいため、法人に限定するという考え方もある(※80)

    D 登録事項

    登録する事項については、下記の事項とし、申請者には下記事項を記録した登録事項証明書を交付することが適当である。

  • ・登録番号
  • ・登録日
  • ・ライセンサーの氏名・住所
  • ・ライセンシーの氏名・住所
  • ・許諾の対象となる著作物(下記E参照)
  • ・許諾された利用行為及び許諾された条件
  • ※79 1件のライセンス契約によりひとつの著作物の著作権について許諾される場合もあれば、2以上の著作物の著作権について許諾される場合もある。この場合の登録免許税については、例えばライセンス契約の件数1件当たりの額と、著作物が特定される場合の著作権1件当たりの額とを定めることが考えられる。

    ※80 平成19年の産業活力再生特別措置法の改正により新設された「特定通常実施権登録」は法人間の契約を対象としている。

    --66/94--  
  • ・許諾された期間(=登録の存続期間:最長10年で更新可(※81)
  • ・許諾された地域
  • E 登録対象の特定方法

    「許諾に係る著作物を利用する権利」が対抗力を有するためには、登録時に権利の内容が特定されていること、すなわち、対象となる著作権と「許諾に係る著作物を利用する権利」の設定範囲が特定されていることが必要である。

    そこで、登録の際に、「許諾に係る著作物を利用する権利」の特定に必要な事項を記載することが考えられる。

    例えば、許諾の対象となる著作物の題号(又はそれに代わる名称、コード、符号等も可)、著作者の氏名、創作(第一発行・第一公表)年月日、現行法に基づく登録がされている場合はその登録番号(※82)などにより行うものとする。

    また、「許諾に係る著作物を利用する権利」は、著作権者の許諾によって効力が発生する権利であるため、たとえば、包括的ライセンス契約の中に、題号等がない、または完成途中であるなどの、上記によっては特定しにくい著作権が含まれている場合には、当該著作権が当事者間において許諾対象となる権利として特定されているのであれば、上記以外の方法によって特定して登録を申請することが可能と考えられる。

    いずれにしても、登録対象がある程度明確であるとともに、その特定が申請者の負担にならないよう配慮することが必要である。

    F 登録の効果

    新たな登録原簿に登録された、「許諾に係る著作物を利用する権利」は、その後に当該著作権を取得した第三者に対して、登録された「許諾に係る著作物を利用する権利」の範囲内で対抗力を具備する。

    また、登録後に発生した著作権の「許諾に係る著作物を利用する権利」についても、登録対象に含まれている限りにおいて、第三者に対して、対抗力を具備する。

    G 登録事項の開示制度

    ライセンシー名及び「許諾に係る著作物を利用する権利」の内容は、事業戦略や営業秘密に関わる重要な情報であって非開示とすることのニーズがある。

    一方、本制度が登録により権利を公示する対抗要件制度である以上は、許諾対象著作権の取得等によりライセンシーと対抗関係に立つ第三者等には、対抗される「許諾に係る著作物を利用する権利」の内容を知る機会が設けられている必要がある。

    ※81 この案では、特許における「特定通常実施権登録」と同様の条件を想定している。

    ※82 プログラム著作物の場合、登録番号のほか、「プログラム分類」も特定方法として簡便かつ有効である。

    --67/94--  

    他方、著作権を譲り受けようとする者のように、未だ対抗関係にない第三者は、取引の際にライセンサーに確認して権利の内容を調査する機会を設けられていれば足りると考えられる。

    そこで、ライセンシー名と「許諾に係る著作物を利用する権利」の内容を除いた事項(ライセンサー名や登録日、登録番号等)は何人にも開示されることとし、登録事項の全部は登録当事者とライセンシーと対抗関係に立つ第三者等の一定の利害関係人にのみ開示されるという考え方を基本として制度を構築することが適当と考えられる。

    a 一般開示事項

    ライセンシー名及び「許諾に係る著作物を利用する権利」の内容に関する登録事項は開示されないことが適当と考えられる。

    一方、その他の登録事項は開示されることから、何人も、ライセンサー名、当該ライセンサーが新たな登録ファイルに登録している件数等についての情報は国から開示を受けられることが適当と考えられる。

    登録当事者たるライセンサーとライセンシーには登録内容は開示されるため、著作権を譲り受けようとする者は、ライセンサーに、譲り受けようとする著作権に関する「許諾に係る著作物を利用する権利」が登録されているかを直接確認した上で、取引を行うことができる。

    b ライセンシーと対抗関係に立つ第三者に開示される事項

    ライセンシーと対抗関係に立つ第三者は、一定の手続きをとれば、対抗される「許諾に係る著作物を利用する権利」の内容に関する登録された情報について国から開示を受けられるようにすることが適当と考えられる。

    H 登録の対象となる著作物の種類

    今回検討した登録制度については、もともと著作権法においては、著作権契約における著作物を利用できる(許諾を受けた)地位を保護する制度がないので、特に限定することなく、基本的にはいずれの種類の著作物も登録可能とする考え方がある。

    一方、著作物を利用できる(許諾を受けた)地位の保護に関する要望が比較的強いのはコンピュータ・プログラム業界であり、また、平成19年の産業活力再生特別措置法の改正により特許等については特定通常実施権登録の創設により対抗要件が認められたところ、コンピュータ・プログラムについては特許権による保護の対象となっているものも多く、緊急性、必要性が高いので、特許権と重畳的に保護されうるコンピュータ・プログラムに限定するというのも一つの方法であると考えられる。その場合、著作権制度全体との整合性について検討する必要がある。

    --68/94--  
    I 指定登録機関

    今回検討した登録制度の運用については、文化庁長官が指定する者に登録事務の一部又は全部を行わせることも考えられる。

    J その他

    許諾が効力を生じないこと、許諾が効力を失ったことなどの事由がある場合、登録の抹消の登録を申請することができる旨や、この登録で記録されている保有個人情報については、行政機関個人情報保護法に基づく開示に係る規定は適用しない旨など、登録制度の実施に当たり必要な規定を検討する必要がある。

    ③ 著作物を利用できる条件の保護(契約内容の承継)

    ②で検討した登録制度は、破産管財人や譲受人等から著作権に基づく差止請求を受けないための対抗力を具備するものであり、当然には契約内容が承継されるものではなく、利用者が対抗要件を取得した場合の利用許諾契約における許諾者の地位の承継については、法律で一定の制限を加える等の措置をすることは適当ではなく、基本的には判例・学説の蓄積により秩序形成を図るべきものである。

    (2) 利用権について(著作物を独占的に利用できる地位の確保)

    利用権の制度については産業財産権に多くの例が見られるが、著作権制度の中で利用権のうち産業財産権制度における専用実施権(排他的な実施権で、登録により効力が発生するもの)の制度を導入している国はほとんどない。専用実施権に相当する権利を創設する場合は、現行著作権制度の仕組みを大きく変える必要があると思われる。したがって、産業財産権のように著作権法上明確に位置付けて、物権的な権利を創設することや、第三者への対抗要件として独占的な利用許諾を登録する制度を創設すること等については、今後の課題として引き続き検討することが適当である。

    4 おわりに

    ライセンシーの保護等の在り方については、特許等の登録制度との整合性なども踏まえると、新たな登録制度を創設することは、例えばライセンサーが破産した場合などにおける対抗要件が具備されることとなるため、基本的にはこのような方向で法改正を検討すべきである。

    その際、著作物の取引に関する多様なビジネスの実態もあることから、制度設計の詳細については、関係業界の意見も聞きながら、より活用しやすい制度となるよう、さらに適切な方策の検討も含め、引き続き検討すべきである。

    --69/94--  

    【参考:制度設計のイメージ】

    前記②(著作物を利用できる(許諾を受けた)地位の保護のための登録制度の概要)に基づく制度設計のイメージは、次のようなものとなる。

    (ライセンサーX社はライセンシーA社に対し題号「いろは」、「甲乙丙」の著作権について,B社に対し題号「いろは」の著作権について,C社に対し題号「ドレミ」、「123」の著作権についてそれぞれライセンス契約を締結していたところ、題号「いろは」の著作権がX社からY社に対し譲渡された場合には、A社及びB社はY社に対し、著作物を利用できる(許諾を受けた)地位を対抗することができる。)

    制度設計のイメージ図解

    --70/94--  

    第6節 いわゆる「間接侵害」に係る課題等について (司法救済ワーキングチーム関係)

    1 問題の所在

    著作権法においては、同法上の権利を「侵害する者又は侵害するおそれがある者」に対し、同法第112条第1項に基づき、差止請求を行うことが認められている。しかし、著作物等につき自ら(物理的に)利用行為をなす者以外の者に対して差止請求を行うことができるかどうかについては、現行著作権法上、必ずしも明確ではないと考えられる。

    従来の裁判例においては、著作物等につき自ら(物理的に)利用行為をなすとは言い難い者を一定の場合に利用行為の主体であると評価して差止請求を肯定したもの(クラブ・キャッツアイ事件(※83)等)や、一定の幇助者について侵害主体に準じるものと評価して差止請求を肯定した下級審裁判例(ヒットワン事件(※84))や、著作権法112条1項の類推適用に基づき差止請求を肯定した裁判例(選撮見録事件(※85))も見られる。

    しかし、これをめぐっては様々な議論が展開されているほか、従来の裁判例においても、自ら(物理的に)利用行為をなす者以外の者に対して差止請求を肯定できるかどうか、肯定できるとすればその相手方となる主体はどのような者か、そしてその差止請求の根拠は何か、ということについて一致した認識があるとは必ずしもいえない。

    特許法においては、第101条において、①特許発明の実施にのみ用いられる物の生産・譲渡等する行為(第1号、第4号)および,②発明の実施に用いられる物でその発明の課題の解決に不可欠なものを情を知りつつ生産・譲渡等する行為(第2号、第5号)を侵害行為とみなすこととされ、これらの行為が、第100条に基づく差止請求の対象となることが明示されている。

    そこで、著作権法上、物理的な利用行為の主体以外の者に対しても差止請求を肯定することができるかどうか、また、その立法的対応の必要性等について、検討課題とされてきた(※86)

    この点、これまでの法制問題小委員会において、従来の裁判例からのアプローチ、外国法からのアプローチ、民法からのアプローチ、特許法等からのアプローチのそれぞれにより、基礎的な研究及び検討を行った上で、平成19年1月の著作権分科会報告書において、以下のような検討結果をまとめた。

    ※83 最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁

    ※84 大阪地判平成15年2月13日判時1842号120頁

    ※85 大阪地判平成17年10月24日判時1911号68頁

    ※86「知的財産推進計画2007」(平成19年5月31日・知的財産戦略本部決定)においても課題として示されている。

    --71/94--  

    特許法第101条第1号・第3号(※87)に対応するような間接侵害を何らかの形で著作権法上も認めるという基本的方向性については特に異論はなかったが、それを超えるような間接侵害の考え方については、前述のような比較法研究を含めた徹底的な総合的研究を踏まえた上で、今後も更に検討を継続すべき

    また、損害賠償・不当利得については、デジタル・ネットワーク化の進展により、侵害行為の発見や損害額の立証が極めて困難になっており、そのために権利者が損害賠償請求を事実上断念する場合もあるとの指摘がある。このような状況も踏まえ、権利者による損害額の立証負担を軽減するための法定損害賠償制度等を含めて、損害賠償請求や不当利得返還請求の役割・機能等に関して、総合的に検討することとされている。

    2 検討結果

    (1) 現行規定の適用による対応の状況

    1.で述べたクラブ・キャッツアイ事件以降、著作物等につき自ら(物理的に)利用行為をなす者以外の者に対して、いわゆる「カラオケ法理」の採用により差止請求を認める内容の裁判例の蓄積が見られたが、その判断基準は必ずしも一致しているとは言えないと考えられる。

    このような状況を踏まえ、カラオケ法理の過度の拡張適用は、差止請求可能な範囲を広すぎるものとし、予測可能性の欠如を招くことから、立法的対応が必要であると考えられる。

    ただし、カラオケ法理における報償責任的な要素(利得性)を物権的請求権的な領域に持ち込むことは、民法理論に混乱を招きかねないことから、この法理をそのまま立法に反映させることは必ずしも適当ではないのではないかとの意見があった。

    また、諸外国においても差止の相手方を直接侵害者(自ら(物理的に)利用行為をなす者)に限定しているわけではないが、カラオケ法理の適用のない行為であっても、差止請求を認めるのが適当と考えられる場合があることから、適切な範囲で直接侵害者(自ら(物理的に)利用行為をなす者)以外の者に対しても差止請求を認めるよう立法的対応が必要であると考えられる。

    (2) 立法の方向性の検討

    ① 立法の方向性について

    ※87 平成18年法改正により、現在は第4号に号ずれしている。

    --72/94--  

    立法の方向性については、以下のような選択肢について検討を行った。

  • ア 第112条において、差止請求の対象となる「侵害」に、自ら(物理的に)利用行為をなすことによるもの以外にも一定の範囲のものが含まれる旨を規定
  • イ 第113条において、いわゆる「間接侵害」行為に該当する一般的な行為類型について、侵害とみなす行為として規定
  • ウ 第113条において、いわゆる「間接侵害」行為に該当する具体的行為類型について、侵害とみなす行為として規定
  • エ 新設規定として、いわゆる「間接侵害」を行う者に対して、裁判所が措置命令を行うことができることとする旨規定
  • これらのうち、侵害とみなす行為について、第113条に行為類型を追加するイやウのような考え方については、同条は、著作権の支分権の及ばない範囲まで権利の効力を実質的に拡張する規定であるため、具体的に列記することによって反対解釈を招くおそれがあるとの意見があった。また、一般的に規定することについては、著作物の利用形態が多様であることから、外縁が不明確となりかねないなどの問題が考えられる。

    また、特許法との関係については、第101条において、権利侵害を惹起する物に着目し、当該物の提供行為を侵害とみなす旨の規定となっているが、著作権法においては、特許法と異なり、その権利侵害の態様が、物の提供によるもののみならず、多岐に渡っていることから、特許法と同様の制度設計を採ることは、必ずしも適切ではないとの意見があった。

    また、これらの検討に加え、前述の通り、自ら(物理的に)利用行為をなす者以外の者についても、第112条に規定する侵害主体として同条の(直接)適用を認める形で従来の裁判例が多く蓄積されてきていることを踏まえれば、法的継続性の見地からも、アに示すように、第112条において差止請求の対象を明確化することが妥当であり現実的であると考えられる。

    立法に向けた検討のポイントとしては、第112条の「侵害」者の範囲が、自ら(物理的に)利用行為をなす者のみに限定されないことを明確化するとともに、一定範囲の者に限られる旨を明確化することが重要であるとされた。

    ② 差止請求対象として想定される範囲について

    本立法の方向性の検討にあたっては、従来の裁判例の状況を踏まえ、例えば以下のような事例が差止請求の対象となることを念頭におきつつ、条文上具体化を図ることが適当であると考えられる。

    ○ カラオケスナックの経営者の管理支配の下で従業員であるホステスに歌 唱させているケースのほか、同店において、客に歌唱させているケースなど、 権利侵害発生の場を提供しているケース(クラブキャッツアイ事件。以下同

    --73/94--  

    様に関係裁判例を示す。)

    ○ ピアツーピア方式のファイル交換サービス(中央サーバー型)提供者など、権利侵害発生の「非物理的な」場を提供しているケース(ファイルローグ事件(第一審中間判決、控訴審判決)(※88)

    ○ 著作権侵害が生じているカラオケ店に通信カラオケサービス等を提供するリース業者など、侵害の用に供される物品等を、侵害行為が行われている状態を知りながら、提供し続けているようなケース(ヒットワン事件(※89)

    ○ 専ら特定のゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入、販売し、他人の使用を意図して流通に置いた者など、権利侵害のみを目的とする物品を提供するケース(ときめきメモリアル事件(※90)

    上記の他にも、権利侵害目的以外の用途も有する物の提供についても、一定の要件の下で、その物の提供を通じて侵害を行っているといえる場合は、差止請求の対象となるべき可能性はあると考えられる。

    ただし、コピー機のような一般品の提供や、電力供給や一般の住居等の賃貸のような一般サービス等の提供を行う者については、これらを理由に差止請求の相手方とするのは不適切であると考えられる。

    なお、本小委員会で別途検討された海賊版の譲渡告知行為に関し、その場を提供している者についても、その実態によっては、一定の要件の下で侵害主体性が認められる可能性があると考える。

    ③ 差止請求の対象とすべき「間接侵害」の判断基準について

    立法の方向性の検討にあたり、いかなる行為をもって「侵害」と評価するか、その構成要件及びその判断基準について検討が必要となる。その点については、以下のような意見があった。

  • a 管理支配性及び侵害発生の蓋然性(及びその旨の認識)を総合して判断すべき
  • b 権利侵害と行為との間の相当因果関係を有する教唆又は幇助に当たるかを基準とすべき
  • c 相当因果関係とともに支配ないし管理の関係の有無を併せて基準とすべき
  • d 侵害行為への関与の蓋然性(客観的要件)と当該関与行為の認識(主観的要件)を基準とすべき
  • これらの意見については、

    ※88 東京地中間判平成15年1月29日判時1810号29頁、東京高判平成17年3月31日最高裁HP

    ※89 大阪地判平成15年2月13日判時1842号120頁

    ※90 最判平成13年2月13日民集55巻1号87頁

    --74/94--  

    ○ 「管理支配」の内容自体が多義的であり、例えば直接行為者の自由意思をどの程度拘束する場合が含まれるのか、また物の提供による侵害が含まれるかどうかなどが不明確ではないか

    ○ 侵害状態を是正できる立場にない幇助者に対する差止請求が認められることとなるのではないか

    ○ 主観的要件が認められないことのみをもって差止請求を認めないとすることが権利救済の実行性の観点から不適当と認められる場合があるのではないか

    といった指摘があるなど、一定の結論を導くには至らず、今後引き続き検討することとされた。

    (3) 間接侵害に係る一例としての立法案の検討

    前述のaの方向性の検討例として、従来の裁判例のうち自ら(物理的に)利用行為をなす者以外の者について侵害主体性を認めたものにおいては、当該者が「他者に行為をさせることにより侵害する」旨を判示したものが相当数あることから、このような「他者に行為をさせることにより侵害すると認められるような場合」について、第112条の差止請求の対象とすることとする案について、検討された。

    そして、その一例として、以下のような案が示された。

    ○ 他者に行為をさせることによるものも侵害に当たるとした上で、その一例として、専ら侵害の用に供される物等の提供等を行うことを例示する。なお、このような、「専ら侵害の用に供される物等の提供その他の行為により他者に(侵害)行為をさせることにより侵害をする者」とは、言い換えると、その行為により、他者の侵害行為をそのコントロール下に置いており、(その行為をやめること等により)この他者の侵害行為を除去し、ないし、生じさせないことができる立場にある者のことであるといえる。

    (4) 損害賠償・不当利得等について

    権利侵害に係る損害の回数ないし損害額の立証困難性に対応するための措置については、外国法の状況も参考にしつつ、損害の推定規定の新設の可能性並びに不当利得及び準事務管理構成での対応の可能性について検討を行った。

    これらについては、民法における損害賠償・不当利得等の基本理論との関係や他の知的財産法における損害賠償制度の現状を踏まえれば、著作権法のみにおいて固有の制度を設けることの可否を含め理論的検討が未だ十分ではなく、引き続き慎重に検討を進めるべきとされた。

    --75/94--  

    3 まとめ

    以上のとおり、著作権法に係るいわゆる「間接侵害」については、著作権法固有の性質や、判例の蓄積の状況に着目しつつ検討を行った結果、特許法における間接侵害に関する規定を参考としつつも、同法とは異なる法制によって差止請求の対象の明確化を図ることが適当と考えられる。

    具体的には、第112条の「侵害」に該当する行為は、著作物等につき自ら(物理的に)利用行為をなす行為に限定されるものではなく、一定の要件を満たす他者の行為もこれに該当しうることを、法律上明確化すべきと考えられる。

    ただし、当該他者の範囲について、無限定に認められるべきではないとの考え方から、いかなる要件を満たす者をその対象とすべきかについて、裁判例の状況や民法における物権的請求権等の基本理論との整合性にも配慮し、慎重に検討を進める必要がある。今回、一案として前記2(3)の案について検討を行ったが、今後、同案の妥当性も含め、引き続き検討をする必要がある。

    また、損害賠償・不当利得については、民法や他の知的財産法における損害賠償制度等における検討状況にも十分留意しつつ、これらの制度との整合性に配慮し、引き続き慎重に検討を進めるべきものと考えられる。

    --76/94--  

    第7節 その他の検討事項

    上記の検討課題のほか、今期の本小委員会では、平成18年1月及び平成19年1月の文化審議会著作権分科会報告書において、一定の結論が示されているものの、他の状況等を踏まえて改めて結論を得ることとされている課題等(例えば、機器利用時・通信過程における一時的固定(デジタル対応ワーキングチーム関係)や私的使用目的の複製の見直しなど)がある。本件については、中間まとめの後、必要に応じて検討を行うこととする。

    また、通信・放送の在り方の変化への対応などについても、課題として取り上げるべきとの意見があったところである。本件については、今後、総務省における「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」の議論に留意しながら、時宜を逃さずに検討を続けることとする。

    --77/94--  

    --78/94--  

    参 考 資 料

    --79/94--  

    参考資料1:第1節「デジタルコンテンツ流通促進法制」関係

    デジタルコンテンツの流通促進に関する諸提案に関する論点整理 (第4回法制問題小委員会(平成 19 年 6 月 7 日)配付資料)(※91)

    デジタルコンテンツの特質に応じた著作権の保護や利用の在り方について、これまで新たな法制に関するいくつかの提案を素材として(※92)、現行の法体系や条約等の関係、法的措置の必要性等について、検討を行ってきたところである。

    現時点では、措置の必要性は別として、まず、その法制的な対応の是非について、以下のように検討の方向性を整理してみてはどうか。

    (1)デジタルコンテンツを想定した「特別法」の制定の是非について

    まず、各提案の中では、デジタルコンテンツの特質に応じて、現在の著作権法とは別にデジタルコンテンツに限定して「特別法」を新たに制定すべきという提案がなされる場合がある。これに関する各論点は次のように考えられる。

    (1-1「デジタルコンテンツ」の定義について)

    ○ そもそも特別法の対象とする「デジタルコンテンツ」について、共通的に念頭に置かれているものが、必ずしも明確にはなっていない。また、それぞれの提案の中でも定義の外縁は明確ではなく、例えば、

    ① 商業利用されるデジタルコンテンツに着目するとの提案の場合、商業利用されるかどうかは、同一のコンテンツでも市場の状況によっては、商業利用されたりされなくなったりするなど、両者の区別は流動的である。

    ② アナログのコンテンツをデジタル化したものを含めて、デジタルコンテンツとする提案については、現在のデジタル化技術の下では、あらゆるコンテンツがデジタル化されることがあり得るため、こちらも流動的である。

    こうした提案の場合、これらは、コンテンツうち特定のもの――「デジタルコンテンツ」――に着目してそれに特有の法制度を想定したというより、むしろ、コンテンツの範囲を限定せずに、特定の利用方法をする場合に特別の法効果を持たせる法制度を想定していると考えられる。

    ⇒ 多義的であり得る「デジタルコンテンツ」の定義を検討するよりは、「デジタルコンテンツ」に限らず、どのような利用の場合にどのような課題があるのか、具体的な課題に即して検討すべきと考えるが、どうか。

    ※91 なお、本資料は、第4回法制問題小委員会の終了後に、同会議の意見を踏まえて修正された後のものである。

    ※92 平成19年4月20日(金)法制問題小委員会(第2回)配付資料1、2参照。

    --80/94--  

    (1-2「特別法」との法形式をとることについて)

    ○ なお、「特別法」を提案する意図として、著作権以外の知的財産権や肖像権なども含め、コンテンツに含まれる権利を包括的に念頭に置き、これらについて一括して法律関係を規定しようとの意図を持つ提案がある。この点については、コンテンツの利用に当たって、著作権のみならず、肖像権等の他の権利関係を整理することの重要性は、諸方面で指摘されていることは確かである。しかしながら、この小委員会は、著作権法上の課題について検討を行うものであるほか、「肖像権」については実定法が存在しないという事情がある。

    ⇒ 「特別法」の制定の是非をまず論ずるのではなく、まず、著作権法に関して提案されている個別制度の内容について検討し、求められる措置がいかなる内容のものかを見定め、その結果に応じて、最後に、どのような法形式が適当であるかを検討すべき問題と考えるが、どうか。

    (2)著作権や著作者人格権等の放棄や不行使について

    インターネットを活用し、不特定多数の者が互いの著作物を利活用しあう状況等が生じていることを踏まえ、著作権や著作者人格権等の放棄を活用し、それによって、安定的なコンテンツの取引・流通を可能とすることについての提案があった。これに関する各論点は次のように考えられる。

    (2-1 著作権の放棄について)

    ○ 著作権法では、特に著作権の放棄については規定していないが、一般に、財産権をその権利主体の意思で放棄することは、担保権者等の利害関係を有する第三者の利益を害しない限り、可能と考えられている。個別の状況に対応して著作権者が意思表示すれば足り、特に放棄そのものについての法的措置は要せず、私人間での自主的な取組が可能である。

    ⇒ 仮に、法的な仕組みが必要であるとすれば、次のような場合と考えられる。

  • ・ 放棄の意思表示の仕方について(※93)、登録等の形式と絡める場合(後述)
  • ・ 放棄の意思表示の撤回について制限等を行う場合(意思表示の撤回そのものの制限や、意思表示を期待して取引関係に入った者の救済など)
  • (2-2 著作者人格権の放棄・不行使について)

    ○ 著作者人格権については、著作者の人格的利益を保護するために認められた権利であり、また、著作権法第59条において著作者人格権を譲渡することができない旨を規定

    ※93 加戸守行著『著作権法逐条講義(五訂新版)』((社)著作権情報センター、平成18年3月)その他、権利放棄について、一定の積極的な意思表示があった場合に権利放棄が有効になるとする見解もある。

    --81/94--  

    していることにかんがみ、著作者人格権の放棄の可否、著作者人格権の不行使を内容とする契約が有効となる範囲などについて、学説上見解が分かれている。

    仮に、著作者人格権の放棄(又は不行使)について考えるなら、上記の著作権の放棄と同様の検討課題のほか、加えて、意思表示の撤回についての制限を行う法的措置の可能な範囲など、複雑な問題点があると考えられる。(なお、著作者人格権に関する課題については、社団法人著作権情報センターにおいて、諸外国の立法動向も踏まえつつ調査研究が行われている。)

    一方、コンテンツを流通させる上で、もっぱら関係する著作者人格権は、氏名表示権と同一性保持権であると思われ、著作権の場合に比べて、比較的、検討の対象を絞りやすいのではないかとも考えられる。

    ⇒ コンテンツを流通させる上で問題となる一定の利用形態が想定されるのであれば、著作者人格権の権利制限(同意みなしや適用除外など)の問題として捉えることも可能か。(5-2参照)

    (3)コンテンツの登録を求める新たな制度について

    デジタルコンテンツの流通促進を目指す提案には、コンテンツについての新たな登録制度を設けるという提案が多く見受けられた。なお、登録制度によって達成しようとする目的は、各提案によって様々である。例えば、

  • (A) 権利者の所在等を明確化するための登録制度
  • (B) 登録すれば特別の規定の効果を享受できるとする登録
  • (C) 登録内容に真正なものとみなすことなど、登録されたコンテンツの利用契約を定型化し、取引を簡素化するための登録制度
  • (D) 利用者側の申出、登録により、簡易な利用許諾を可能とする登録制度などが提案されている。これに関する各論点は次のように考えられる。
  • (3-1 権利者明確化のための登録について)

    ○ 登録制度を設けるからには、登録されることによって、いかなる法効果が付与されるのかが制度の中心となる。例えば、あるコンテンツの権利者、その所在地を明確化するための登録制度として、登録により特段の法効果が発生しないものであれば、基本的に、この登録制度を設けること自体には法的措置を要せず、私人間での自主的な取組が可能である。

    (3-2 登録によって、一定の法効果が生じるとする登録について)

    ○ 登録をすることによって、一定の法効果が生じるとの制度設計の場合、例えば、
    ・ 登録した場合は、そのコンテンツに関しては、一定の利用を許諾した(一定の権 利を放棄した)ものとして取り扱う、
    ・ 登録した場合には、あらかじめ提示した(登録した)利用条件に即した利用の申

    --82/94--  

    し込みがあれば、必ず許諾をしなければならないことして取り扱う、
    などの制度設計が提案されているが、これが権利者の意思(複数の権利者の場合は、その合意又は同意)に基づいて登録されるものであるなら、これは前者は権利者の意思表示に基づく法律関係、後者は当事者の合意に基づく法律関係と考えられ、基本的に、この登録制度を設けること自体には、法的措置を要せず、私人間での自主的な取組が可能である。

    (なお、関連して、特に法的措置がなくとも、現に、クリエイティブ・コモンズのように、権利者の意思表示により、円滑なライセンスを実現する取組が進められており、登録制度よりも少ないコストで同様の効果が実現できる方策があるのではないかとの指摘もあった。)

    (3-3 法的措置を伴う登録について)

    ○ その上で、登録制度に関して法的措置を行う場合として、次のようなものも提案されているが、それぞれについては、次のように考えられる。

    ① 登録されたコンテンツについて利用条件等の明示がない場合、法律により一定の意思表示があったものと推定したり、みなしたりすることで、一定の法効果に絞るという提案があった

    ⇒ 上記のように、当事者の意思表示に基づいて、登録の効果を決めることができることに照らせば、生じる効果を、法律で特定のものに定めてしまうことは、法律関係を単純化して、取引を容易にするとのメリットと同時に、多様な契約形態の創意工夫が生じる可能性を妨げるとのデメリットもある。当事者の自由な活動に任せるべき部分と、法律で一律に定める部分とを見極めた上で、慎重に検討する必要があるのではないか。

    ② 提案の中には、登録したコンテンツについては、法で定められたものとは別途の保護期間を与えるという提案もあった。

    ⇒ 法により著作権等に与えられた権利より短い期間とすることについては、上記と同じ、一定期間後の権利の放棄と考えることもできるが、法により与えられた権利より長い期間とすることについては、ベルヌ条約の無方式主義(※94)との関係を整理する必要があるのではないか。

    ③ 登録された内容が、現実の権利関係と異なるものであった場合(登録の際の関係者の合意に瑕疵・無効原因がある場合その他)に、登録内容を真正な権利関係と推定する、又はみなすとの提案もあった。

    ※94 第5条(2)項 (1)の権利の享有及び行使には、いかなる方式の履行をも要しない。(後略)

    --83/94--  

    ⇒ 一定の権利関係をみなしたり、推定したりする場合には、その他の民事法制一般とのバランスに照らし、登録を行ったという事実だけで、どこまでの内容をみなすことができるのか。我が国の他の登記・登録制度との比較の上で適当か。その他、当事者の帰責性、相手方の主観的要素等を求める程度、登録を管理する機関に審査権能を与えるかなど、様々に検討を要する要素があると思われる。

    一方、複数の権利者のうちでも誰か1人が登録をすれば、他の権利者にも効果が及ぶ、あるいは他の者も許諾をしたような形になるなど、当事者の意思無しに又は反して、何らかの法的効果が生ずることは、民事法の原則に照らして難しい場合があるのではないか(3-4参照)。

    また、コンテンツに含まれる著作物について、現行の登録制度(※95)により別途の法効果が生じる場合には、コンテンツの登録制度による権利関係との優先関係をどのように整理するのか。

    (3-4 権利者以外の者による登録について)

    ○ なお、提案の中には、コンテンツの権利者ではなく、コンテンツを利用したい者が登録を行い、利用条件を審査した結果不合理でなければ、適切な対価を支払うことにより、個別に権利者に許諾をとることなく、利用を可能とするとの提案もあった。

    ⇒ 利用者の側で登録を行い、権利者の意思に反して、又は意思にかかわらず、一定の制約が加わることについては、法制的に正当性がないと考えられるが、どうか。

    なお、提案によれば、権利者によって利用条件(又は利用させない旨)の登録がなされた場合には、権利者の意思を優先させるとの内容であるが、これは、権利者側は、自らの意思に従った権利行使を行うためには、予防的に登録をしておかなければならないことを意味し、つまりは、ベルヌ条約の無方式主義に抵触することになるのではないか。

    (3-5 登録制度について、その他)

    ○ そのほか、登録制度に関しては、次のような指摘があった。

  • ・ 仮に、肖像権等も含めて、コンテンツに含まれる権利を全て登録する制度を考えるのであれば、現実的に実現困難ではないか。
  • ・ コンテンツ単位での登録制度の場合、各権利者が関係者の権利関係を整理して登録を行う必要があり、通常の登録に比べても、さらに、登録者の側に登録によるメリットがなければ、現実には登録制度の利用は進まないのではないか。
  • ・ 登録することで訴訟において立証責任の軽減など、何らかのメリットを受けられるような仕組みも考えられるのではないか。
  • ※95 著作権法第77条 次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。

    一 著作権の移転(相続その他一般承継によるものを除く。次号において同じ。)又は処分の制限

    二 著作権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は著作権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限 (出版権について第88条、著作隣接権について第104条で同様の規定がある。)

    --84/94--  

  • ・いずれにしても、実際に、利用者がどのような登録制度を望んでいるかを聞いてみる必要があるのではないか。
  • ・新たな登録制度を設けるかどうかにかかわらず、既存の登録制度について、簡便かつ少ないコストで登録できるよう制度の整備を検討すべき。
  • (4)利用条件調整のための仲裁機関、不正行為の監視機関について

    (4-1 仲裁機関について)

    ○ 上記の登録制度に関連して、コンテンツ利用条件等について、利用者と権利者等との間で紛争等が生じた場合には、迅速な解決を可能とする仲裁制度・機関を設けるという提案があった。しかしながら、仲裁制度は、解決合意の困難性などの理由により、実態上我が国の場合はあまり使われていないとの指摘もある。

    ⇒ 導入する際には実際に機能するか検証する必要があると考える。また、実際には上記の登録制度の提案に関連して、その利用条件の調整を行う制度との提案が多く、登録制度についての議論を踏まえて検討を行えばよいのではないか。

    (4-2 不正行為の監視機関について)

    ○ また、権利保護の実効性を高めるために、流通するコンテンツの不正行為を防止するための取組が重要であり、例えば、監視機関を導入すべきという提案もあった。これについては、仮に行政機関として監視委員会のようなものを想定するのであれば、強制調査権限が付与されないものは実際には機能しないだろうとの指摘や、著作権は私権であり、国家機関の関与という形よりは私人間の解決の方が望ましいのではないかといった指摘があった。

    ⇒ 現時点では、諸提案においても、具体像や求める機能が明確ではなく、不正防止のための取組の全体像を把握した上で、さらに、監視機関の必要性について、検討してはどうか。

    (5)より簡易な強制許諾制度、新たな権利制限規定の創設について

    (5-1 権利者不明な場合の対応など、より簡易な強制許諾制度について)

    ○ コンテンツの流通を促進させるために、権利者不明の場合の新たな対応策(損害賠償請求や差止請求の制限)や、より簡易な強制許諾制度を導入することが必要との提案があった。これについては、以下のように考えられる。

    ⇒ 現在、著作権法において、強制許諾制度としては、公益上の見地から政府機関が

    --85/94--  

    著作権者に代わって許諾を与えて著作物の利用を認める裁定制度がある。具体には
    ①著作権者不明の場合の裁定、②放送についての裁定、③商業レコードへの録音の 裁定があるが、既存の裁定制度で対応できない事態や不都合な点について整理した 上で、必要と考えられる制度を検討すべきと考えるが、どうか。

    ○ そのほか、次のような指摘があった。

    ・ 権利者不明の場合において、所在の判明若しくは利用拒否の意思表示があるまで著作物の利用ができる仮の地位を認めるような制度も検討に値するのではないか。

    (5-2 フェアユース規定や改変の許容等の新たな権利制限規定について)

    ○ 各提案の中には、定性的な要件だけを規定した包括的な権利制限規定の創設を求める提案や、米国のように著作権者に許諾なく著作物を利用できる行為類型を限定しないフェアユース規定を導入するという提案があった。このうち、フェアユース規定については、

    ・ 訴訟になってみないと分からない面があり、かつ、訴訟には、莫大な資金と長い時間がかかること、投資の観点からは困ることから、アメリカでもネガティブな意見がある、

    ・ 明文の規定があるが、これは過去の判例の蓄積の結果であり、法規範の形成を全面的に裁判に委ねてしまう規定は、我が国の法制になじみにくい、

    といった指摘があった。これについては、以下のように考えられる。

    ⇒ フェアユース規定は、アメリカの判例において確立してきた法理であり(※96)、アメリカの司法の状況、関係者・団体間での協議、ガイドラインや契約システムの状況の中で機能している法理である。一方で、我が国では、個別の権利制限規定を列挙し、法的安定性と予測可能性を高める構成をとっており、それを直ちに日本に導入できるかについては、両法体系の特徴、司法の状況を勘案しなければならないと思われる。このような、我が国の権利制限規定の構造を踏まえつつ、著作物の利用実態や今後の技術動向を勘案して、一定の条件下で柔軟に運用が可能な規定を設けていくことなどについて、検討を進める必要があるのではないか。

    ○ また、名誉や声望を害しないような改変について、著作者の許諾なく行えるよう、上記の登録制度と絡めて、改変に同意したものとみなすことや、新たな権利制限規定を設けるとの提案があった。これについては、以下のように考えられる。

    ⇒ 著作者人格権は、著作者の人格的利益を保護するものであり、その放棄が可能かどうかについては、前述のように、見解が分かれている。著作者人格権の在り方については、社団法人著作権情報センターにおいて、諸外国の立法動向も踏まえつつ

    ※96「公正使用の法理は、著作権者の独占権に対する制約としては、最も重要かつ古くから確立されたものであるが、……(中略)……107条は、現行の判例法における公正使用の法理をそのまま述べることを意図したもので、これを狭めたり、変更したりする趣旨ではない。」(連邦議会下院報告書<H.R.Rep.No.94-1476 p.66 (1976)>)(内藤篤訳)

    --86/94--  

    調査研究を行っており、その報告を踏まえて、検討してはどうか。

    (6)その他

    ○ そのほか、次のような指摘があった。

    ・ インターネットの普及にともない、著作物の複製や送信などが世界各地で行われまた、他国のサーバにアップロードされたコンテンツを日本で利用できる中で、インターネットが関係する著作権侵害の場合には、加害行為地や損害発生地などが必ずしも明確でなく、日本だけで、「デジタルコンテンツ」を対象とした特別法を設けるようなことが、現実に可能なのか。適用範囲の限界付けが難しいのではないか。

    ・ 利用者が、著作権を管理している者を一元的に見えるようなシステムを構築すべきではないか

    --87/94--  

    参考資料2:第5節・ライセンシーの保護等の在り方関係

    (1)文化審議会著作権分科会「審議経過報告」(平成15年1月)

    倒産時・譲渡時におけるライセンシーの保護について、「利用者の保護の範囲(独占性、契約期間、保守保証義務、クロスライセンス等の特約条項について、どこまで保護すべきか)」、「保護すべき利用者の特定(保護対象を特定する方法・方式)」について検討を行い、以下のとおり提言をまとめた。

    ① 著作物の円滑な利用の促進のためには、一定の条件の下にライセンシーがライセンサーの権利譲渡又は破産後も引き続き著作物を利用できるように、ライセンシーを保護するための法制度は必要なものと考えられる。

    ② 検討に当たっては、まず、 必要な保護の範囲自体を明確にすべきであり、この点については産業界等においても、さらなる検討が必要である。 また、 保護対象を特定する方法・方式については、個々の案(※97)の利点を活かしつつ複数の案を組み合わせた案を検討していくべきである。

    ③ ライセンシーの保護については、債権的なライセンス契約を物権の譲渡に優先させるという法構成上大きな課題を有しており、物権と債権の関係、破産法との関係、ライセンシー間の優先順位等を整理しつつ、実効性の高い最善の方策を慎重に検討する必要がある。

    (2)文化審議会著作権分科会報告書(平成16年1月)

    平成14年度の検討結果を踏まえ、倒産時・譲渡時におけるライセンシーの保護について、産業界の意見を聞いた上で、「利用者の保護の在り方」、「利用許諾契約に基づく許諾者の地位の承継」について検討を行い、以下のとおり提言をまとめた。

    ① 利用者保護については、破産法・民法等の現行法の適用、利用許諾契約及び著作権等の譲渡契約における契約条項の改善等により相当程度解決できると考えられるので、今後も関係者においては、現行法の適用や契約による利用の継続の方法について調査研究を進める必要がある。

    しかし、著作物等の流通の促進に伴い、今後著作権等の譲渡取引等はますます多くなると思われるので、利用秩序に関する基盤整備の一環として利用者保護の制度整備を図ることが望ましい。

    ② 制度整備に当たっては、破産時における破産管財人の利用許諾契約の解除の場合のみならず、著作権等の譲渡に伴う利用許諾契約との関係も視野に入れた制度設計が必要と考える。

    ③ 現行制度との整合性や破産法における双方未履行契約における破産管財人の解除権制限に対する改正案(※98)の内容から、 著作権制度において、利用許諾契約に基づく利

    ※97 報告では、次のような案が示された。①書面によるライセンス契約によって、その後の権利取得者に対抗できるとする案、②ライセンス許諾の登録がされている場合に、その後の権利取得者に対抗できるとする案、③譲受人がライセンス契約を承知している場合には、ライセンス契約を承継させるという案、④ライセンス契約に基づいて事業を行っている事実をもって第三者に対抗できるとする案

    ※98 同報告がまとめられた後、破産法は平成16年6月に改正され、平成17年1月から施行されている。

    --88/94--  

    用者の保護を図るとすれば、対抗要件の制度によるべきである。

    この場合、 現行制度を前提とすれば、登録による公示の制度を基本とすべきである と考えるが、申請に係る手続きの煩雑さや利用許諾契約の内容が公示により明らかになることは取引内容の秘密保護の点で支障があるなどの意見に配慮し、現行の著作権等に関する登録制度の仕組みにとらわれることなく、申請手続、公示される内容等についてはできるだけ利用者の要望に配慮した制度になるよう、著作物等を利用する権利を識別し得る最低限の情報を公示するだけの簡易な制度も含め登録制度の在り方について十分に検討する必要がある。

    なお、公示によらず対抗要件を付与する制度(書面による契約)については、利用者の利便性の観点から考慮に値する制度と考えるが、現行制度の前提を大きく変える ものであり、慎重な検討が必要である。

    ④ 利用者が 対抗要件を取得した場合の利用許諾契約における許諾者の地位の承継については、法律で一定の制限を加える等の措置をすることは適当ではなく、基本的には判例・学説の蓄積により秩序形成を図るべきである。

    なお、 契約の承継の在り方については、 不動産の場合における考え方を参考に、著作権等の譲受人に承継されることを基本として考えるべきであるが、著作物等の利用許諾契約は、不動産における賃貸借契約と違い複雑な契約形態であるものも多いことから、今後も関係者間で研究が行われる必要がある。

    ⑤ 最後に、利用者の保護については、知的財産権全般に通じる制度設計が求められているところであり、著作権制度のみが特別な対抗要件制度を設けることは適切ではないので、他の知的財産権における同様の検討を待った上で、整合性のある制度にすべきである。

    (3)著作権法に関する今後の検討課題(平成17年1月24日・文化審議会著作権分科会)

    著作権法に関する今後の検討課題として、次のとおり整理した。

    基本問題(法制問題小委員会において検討)

    【著作物の「利用権」に係る制度の整備】

    著作権者から利用の許諾を受けたライセンシーには、産業財産権のように物権的な権利が与えられておらず、第三者に当該著作物を利用されている場合に差し止めることができない。このため、実務上、利用できる期間や地域などが限定された形で権利の譲渡を受け、当該著作物を利用するという方法が採られる場合もあるが、このような方法は、法律関係を複雑にするため、必ずしも好ましくない。

    そこで、著作物の「利用権」について、産業財産権のように著作権法上明確に位置付けて、物権化することや、第三者への対抗要件として独占的な利用許諾を登録する制度を創設すること等に関して検討する。

    (契約・利用ワーキングチームにおける検討を踏まえ、法制問題小委員会において検討)

    【ライセンシーの保護】

    これまで契約・流通小委員会で行われてきた検討の成果を基に、著作権が譲渡された場合や著作権者が破産した場合等においてライセンシーを保護するため、契約上の

    --89/94--  

    地位を第三者に主張し得る制度に関して、他の知的財産権法における検討状況を踏まえつつ、検討する。

    【契約規定全般の見直し】

    ① 権利制限規定と契約との優先関係等、著作権法と契約法との関係性に関して整 理・検討する。

    ② 我が国の著作権法には契約に関する規定が少ない状況であるところ、私的自治を尊重しつつ、契約に係る所要の規定の整備を検討する。

    【登録制度の見直し】

    ① 今後の登録制度の利用の促進を図る観点から、登録手続の電子化の推進に関して検討する。

    ② 共有著作権、著作物の「利用権」及びライセンシーの保護に係る制度整備等との関連で、登録制度を見直すとともに、原始的著作権者の登録制度の創設等に関して検討する。

    --90/94--  

    文化審議会著作権分科会法制問題小委員会委員名簿(平成19年9月現在)

  • 青山 善充 明治大学法科大学院教授
  • 市川 正巳 東京地方裁判所部総括判事
  • 大渕 哲也 東京大学大学院法学政治学研究科教授
  • 潮見 佳男 京都大学大学院法学研究科教授
  • 末吉 亙 弁護士
  • 多賀谷一照 千葉大学法経学部教授
  • 茶園 成樹 大阪大学大学院高等司法研究科教授
  • 道垣内正人 早稲田大学大学院法務研究科教授,弁護士
  • 主査代理 土肥 一史 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
  • 苗村 憲司 駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授
  • 主 査 中山 信弘 東京大学大学院法学政治学研究科教授
  • 松田 政行 弁護士,中央大学法科大学院客員教授
  • 村上 政博 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
  • 森田 宏樹 東京大学大学院法学政治学研究科教授


  • (以上14名) --91/94--  

    【法制問題小委員会ワーキングチーム名簿(平成 19 年 9 月現在)】

    1.デジタル対応ワーキングチーム


  • 座 長 茶園 成樹 大阪大学大学院高等司法研究科教授
  • 座長代理 末吉 亙 弁護士
  • 奥邨 弘司 神奈川大学経営学部准教授
  • 島並 良 神戸大学大学院法学研究科准教授
  • 相澤 彰子 国立情報学研究所教授
  • 瀬尾 太一 写真家、 有限責任中間法人日本写真著作権協会常務理事
  • 別所 直哉 ヤフー株式会社法務部長
  • 山地 克郎 財団法人ソフトウェア情報センター専務理事
  • 光主 清範 東芝テック株式会社主席主幹

  • 2.司法救済ワーキングチーム


  • 座 長 大渕 哲也 東京大学大学院法学政治学研究科教授
  • 座長代理 山本 隆司 弁護士
  • 前田 陽一 立教大学大学院法務研究科教授
  • 上野 達弘 立教大学法学部准教授
  • 横山 久芳 学習院大学法学部准教授
  • 平嶋 竜太 筑波大学大学院ビジネス科学研究科准教授
  • 3.契約利用ワーキングチーム

  • 座 長 土肥 一史 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
  • 座長代理 森田 宏樹 東京大学大学院法学政治学研究科教授
  • 小島 立 九州大学大学院法学研究院准教授
  • 菅原 瑞夫 社団法人日本音楽著作権協会常任理事
  • 外川 英明 中央大学法学部特任教授
  • 前田 哲男 弁護士
  • 山地 克郎 財団法人ソフトウェア情報センター専務理事
  • --92/94--  

    文化審議会著作権分科会法制問題小委員会審議経過

    第1回 平成19年3月19日

  • ・ワーキングチームの設置
  • ・今期の検討事項について
  • 第2回 平成19年4月20日

  • ・デジタルコンテンツの特質に応じた制度の在り方について
  • ・海賊版の拡大防止のための法的措置の在り方について
  • 第3回 平成19年5月11日

  • ・デジタルコンテンツの特質に応じた制度の在り方について
  • ・海賊版の拡大防止のための法的措置の在り方について
  • 第4回 平成19年6月7日

  • ・デジタルコンテンツの特質に応じた制度の在り方について
  • ・海賊版の拡大防止のための法的措置の在り方について
  • 第5回 平成19年6月29日

  • ・海賊版の拡大防止のための法的措置の在り方について
  • ・権利制限の見直しについて
  • 第6回 平成19年7月19日

  • ・権利制限の見直しについて
  • 第7回 平成19年8月22日

  • ・権利制限の見直しについて
  • 第8回 平成19年9月21日

  • ・各ワーキングチームからの報告
  • ・私的使用目的の複製の見直しについて
  • 第9回 平成19年10月4日

  • ・中間まとめ(案)について
  • --93/94--  

    これらのマークは、本書中に掲載しているすべての著作物 のうち、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会又は文 化庁に著作権の帰属するものを対象とするものです。

    --94/94--